やきもち、もんもん。
名前が立向居と買い物から戻ってきた。 凄く楽しそうに話している二人。
なんだか胸がモヤモヤする。
『あれ、名前は?』
夕食時、名前が居ないことに気づく。 もう皆揃っているのに…名前だけが居ない。 いや、違う。 もう一人、立向居も居なかった。
『先に食べてて良いって』 『秋?』
秋は何か知ってるのか、クスと笑って。 するとタイミング良く、探していた彼女の声がした。
『ご、ごめん』 『遅いぞ名前〜立向居〜』 『お腹空いたッスー』 『ごめんねっ!』 『すみません、俺が手間取っちゃって』 『違うよ、私が悪いの』 『いえ俺が』 『どっちでも良いよ!お腹空いた!』
しびれを切らした塔子の言葉により、二人の、俺が私がのやり取りは終わった。 何時の間に、そんなに仲良くなったのか…二人は苦笑いで笑い合う。
ドクリ。 心臓が大きく跳ねた。
『じゃ、いただきます!』 『いただ…』 『ちょお待ってや!』
円堂が挨拶をして、皆が続かんとすると次は俺の隣に居た浦部が俺の腕を取った。
『何でダーリンのだけご飯ついでへんの!!』
あ、本当だ。今気づいた。 ダーリンに対して何やのこの扱い!と名前を見た。反射的に、皆も名前を見る。 名前がぴく、と顔を強ばらせると、彼女の隣で立向居がにこりと笑って背中を押した。
『ほら、』 『た、立向居、く…』 『名前さん、ファイトです!』
ほら、と再び名前の背中を押す。 名前は恥ずかしそうにして、て言うか涙目になりながら、俺へ皿を差し出した。
『?』
ラップがかけられたそれを受け取ると温かかった。 ラップを取って中を見たら、そこにはきれいに握られたオニギリが二つ。
『これ、』 『一ノ瀬さん!名前さん、特訓したんですよ』 『ダブル茶碗、卒業したんですよね!名前先輩!!』
エッヘンと何故か音無が得意そうにして。 秋は上手に出来たじゃないと微笑んだ。
『やっと、三角形になったの』 『立向居が握ったんとちゃうんかー?』 『ち、違うもん!』 『違いますよ!俺は名前さんを応援してただけです!!』
名前さん、すごく頑張ったんですよ! と、立向居は嬉しそうにして。 名前も嬉しそうに、立向居君ありがとう、なんて涙目で。
モヤモヤ、してる。
何でだろう? 嬉しいのに。
素直に喜べないこの気持ち。
『一ノ瀬さん!食べてください!』 『あ、えっと…』 『…一ノ瀬君?』 『えっと、』
秋が訝しげに眉を顰めた。 何を戸惑っているんだろう? 名前が折角、作ってくれたのに。
(素直に) (喜べない、とか)
何だろう、これ。
動かない俺を不思議に思ったのか、皆も黙って。 名前を見たら、泣きそうって言うか。
『もー、良い』
いつもより低いトーンのそれは怒っていると言うよりも呆れたものに近かった。 はぁ、とため息を吐いて俺から皿を取る。
『ごめんね立向居君…私の為に付き合ってくれたのに時間、無駄にさせちゃった』 『名前さ…』 『皆もごめんね!私片付けて来るから、先に食べてて!!』
カズヤのご飯注いであげてって、名前はいつもみたいに笑って校舎の方へと消えていった。 ガチャン、テーブルの食器が鳴る。
『何で、食べなかったんですか!』 『え、と…』 『名前さん、すごく頑張ってたんですよ!?』 『う、ん…』 『一ノ瀬君…』
音無と立向居に怒られ、秋には心配され。 そんなの俺だって分からないよと言えば、雷門ははぁとため息を吐き、鬼道はおまえの気持ちも分からんでも無いとなんだか俺より俺の気持ちを知った風に言われた。
『何だよ、鬼道…』 『喜べなかったんだろう、素直に』 『立向居が作ったの、バレバレやもんなぁ!』 『だから俺違いますって!』 『浦部さん、ちょっと黙ってて』
雷門が立ち上がって俺を見る。 何でそんなに怒ってるんだ? 俺が食べなかったのは悪いけども。
『少しは彼女の気持ちも察してあげたらどう?』 『へ?』
間抜けな声が出た。 秋は心配そうに俺を見つめ、土門は「あぁ、」とあきれた声を出して俺と俺にくっつく浦部を見る。
『お前が今感じてること、名前は結構前から感じてるみたいだけど?』
ふ、と笑む土門と鬼道。 俺は浦部の腕を解いた。
『悪い、先に食べてて』
あぁ、って言う返事を背中に受けて、名前の消えた校舎へと向かう。
『調理室は入って直ぐ左です』 『…サンキュ、』
すれ違うとき、教えてくれた立向居にお礼と謝罪を兼ねてポン、と肩を叩いた。
next
全く、世話の焼ける。 と、勘のいい人たちは思ってます。 立向居は純粋に応援しただけ。 有る意味被害者(笑)
一ノ瀬ってリカちゃんの事何てよぶんだ?リカ? 塔子は「塔子」だもんなぁ…(゚Д゚)ミンナが呼ぶから? とりあえず名字呼びさせました。
prev / next[ back to top ]
|