episode:04 『とりあえず、その名前"殿"って言うのやめませんか』 年も、そう変わらないですし。 何か沖田さんに敬われるって凄く気が引ける。 『名前で良いです』 『名前、』 『はい、』 少し照れたように名前を口にされて、なんだか私まで照れくさい。 ▼ 『ふ、風呂…をか、』 『恐らく分からないと思うので、今日は私がご一緒します』 『…』 固まる沖田さん。 勿論一緒と言っても私は服を着て、だ。 そう伝えれば安心したように明らかにホッとされた。 …ホッとするなよとか思ってないもん。 : ・ 『(…褌)』 『名前…?』 『(イケメンが褌って何て…何て…)』 違和感しかないんだろうか。 (沖田さんって格好いいパンツ穿いてそうなイメージがあったから、余計に) タオルを渡して腰に巻くように言い、全て脱ぐ為背中を向ける。沖田さんは戸惑いつつも私に言われるままにして、脱いだ物は洗濯機に入れた。 『もういいですか?』 『ああ…』 『沖田さん髪紐も取りますね』 『あ、ああ…』 『うわ、何て素敵な肩胛骨っ』 『っ!?』 『意外と色黒なんですね、』 『あの、』 『やっぱり、ちょっと筋肉質なんだ…細いんだけどなぁ…』 『名前っ!』 あ、ちょっとベタベタ触りすぎたかな? すみません、と怒ってるであろう沖田さんを見上げれば、怒ってるってより恥ずかしそうで。 『すみません…あまりに素敵な体つきだったのでテンション上がっちゃって、』 『て、てんしょん…?』 『何でも無いですごめんなさい…』 正直、沖田さんの体が本当に伝わってる通り筋肉質かとかそんな事より、細い割に筋肉が引き締まってる体を見て触りたくなった・ってのが本音だったり。 『とりあえず入りましょう…風邪を引くといけないので』 『そ、そうだな…』 少しギクシャクしながら浴室に入る。 沖田さんは緊張しつつも、見慣れないものに興味津々だった。 『名前、何だこの細長いのは?』 『シャワーって言うんですコレを捻ると此処からお湯が出ます』 『湯が!』 丁度良い温度のお湯に触れて、子供みたいに目を輝かせる沖田さんはハッとして咳払いをした。 なんか、可愛い。 『じゃあ髪洗いますから、これに腰掛けてください』 『ああ、』 『目に入ると痛いので、少し上向いてくれますか』 『わ、わかった、』 『…そんな肩に力入れなくても…』 髪洗うだけなんだけどな…こっちまで緊張してきた。 長い髪を丁寧に梳きながら洗う。 染めたりしてないから、凄く綺麗だ。羨ましい。 『痒いところないですかー』 『…大丈夫だ』 『目に入ってませんか?』 『あぁ、』 『じゃあ流しますから、目瞑ってください』 シャンプーを流して、同じ様にコンディショナーして…洗い流した髪の毛の、なんと艶々した事か。う、羨ましい…これはドライヤーかけた後が楽しみで仕方ない。 『じゃあ次は身体ですけど…』 『か、身体くらいは自分で洗う…』 『…それが良いと思います、はい』 ボディタオルにボディソープを付けて泡立てる。一応背中くらい流したいなと背中は洗わせて貰った。 (沖田総司の背中を流しちゃったよ私!) 『後は湯船に浸かって温まって下さい。私は着替えを持ってきますね』 『ああ』 浴室から出て逆上せそう(色んな意味で)な頭を冷ます。 色々教えたし、明日からは一人で大丈夫だろう。 ▼ 『さ、さらっさら…』 『名前…?』 『つるっつる…』 『っ…こそばゆい…』 『あ、すみません』 ドライヤーにビビる沖田さんを押さえ込んで髪を乾かして、予想通りサラサラつるつるな髪を指で梳いて堪能する。 何これ、凄く気持ちが良い。 『なんだか変な感じだ…』 『え?あ、もしかして湯あたりしました?』 『そうじゃない…』 『具合悪いとか…』 『いや、逆だ』 『逆?』 沖田さんは自分の胸を押さえて俯く。 私、はしゃいじゃったけど、沖田さんは今日一日だけで凄く疲れただろうなぁ。 『沖田さん…?』 『苦しかったんだ』 『え、』 『今まで、凄く…。病にかかりずっと咳が止まらなくて…』 『沖田さん…』 沖田さんの患っている病は、今でこそ治療出来るけれど当時は"不治の病"と言われていた。 この病の病原体が発見されたのは、沖田さんが亡くなって20年くらいたってから…つまり、沖田さんからしたら"原因不明"の病なのだ。 『最近は床に伏せる回数も増えたし、薬も効かなくなっていたんだが…』 『そう言えば、こっちにきて一度も咳してませんね…?』 『身体も辛くないし…だから変なんだ』 無理をしている訳では無さそうだけれど…。 ザナークの件も有ったし、もし、万が一沖田さんをこの時代に送った"誰か"の仕業なら油断は出来ない。 一気に無理が来て、もし何か有った時は…。 『皮肉なものだ…身体が良くなり"変だ"なんて…』 自嘲気味に笑う沖田さんの手に触れる。 当たり前だけど、温かくて大きな手…。 沖田さんは今"此処に居る" 『もし、身体が辛くなったら言って下さい』 理由は分からないけれど、沖田さんの体調が"悪くない"のは明らかで。 でも、私に『大丈夫ですよ』なんて無責任な事は言えない。 『此処にいる間は、ゆっくり休んで下さい…身体も、心もね』 私に出来ることって、何なんだろうな…。 next ::補足:: 沖田さんの病気について一応調べはしたんですが、発見したのは1880年代ドイツの医師(細菌学者)だそうです。 日本では明治の初期まで別名で呼ばれ、それに"労"と言う字が入っていることから、自己解釈で「原因不明」と書かせていただきました。 (当時どう扱われていたのかは分かりません) 病気については体調が良い悪い程の表現をさせていただき、深くは触れずにいきたいと思います。 よろしくお願いします。 犬猫 prev / next
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