将来はお嫁さんなんて言えない
私は今人生の岐路に立っとる。大学行くか、それとも。
「第一希望、ヤクザとか書いたらどないなんねんやろ」
公園でブランコに乗りながら、考える。女の立ち入れるもんなんかなぁ。おとん、おかんに何て言おう。こんなん誰に相談したらええねん。周り皆ヤクザしかおらんし。学校にも友達おらんし。はぁ、溜息しか出んわ。公園の周りを見渡すと、青年がベンチに座って溜息をついているのが目に入った。あの人もなんか悩んでるんやろか。
大学生っぽい、けれど。
気になったもんで、近づいてみる。するとその人が近づいてくる私に気づいた。目が合う。めっちゃ、男前やん。こんな青年が何に悩んでるんやろ。隣の空いているベンチに座る。
「お兄さん、どないしたん?悩んでるようやけど」
「うるさい。ほっておいてくれ」
「おお、荒ぶっとる。私は嶋野レン。お兄さんは?」
「…」
「無視かいな。ほな、お邪魔したな」
声かけただけ無駄やったわ、と思い立ち去ろうとすると、手を引っ張られた。なんや、こいつどないやねん。
「…憂さ晴らしがしてぇ」
「もっかい聞くな。お兄さん名前は?」
「峯義孝だ。東都大学に通っている」
「うわ、エリートやん。賢いねんなぁ。でもお兄さん見る限り、苦学生なんか。わかった、レンに任しとき。憂さ晴らし付き合うたるわ」
「…高校生がすることなんてたかが知れてるだろ。」
「ほんなら何で手を取ったんよ。峯さん、変な人やなぁ。まぁ、私は一丁前にお金はあんねん。やから今日は貸しということで、将来社会人なったら返してな?」
峯さんの手を握り、走っていく。この男前を変身させてやろう。峯さんは戸惑いながらも、変わった女子高生が何をするのかを期待してる。まずは美容院に行った。ここは行きつけで、店長がおもろい人やねん。ドアを開けて、息を乱して入ってきた2人に店長は駆け寄った。
「どうしたんだい!?そんなレンちゃん。駆け込んで」
「はぁっ、はぁっ…この人もっと男前にして」
「…っ、はぁ?」
「今の髪型、安い床屋さんで切ってもろてるやろ。見たらわかるねん。色んな人見てきてるからな。やからまず、見た目から入ろ。ほな、お願いします」
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その後、髪を切ってセットしてもらい、ル・マルシェでスーツを買う。流れに身を任せていた峯さんは、案外楽しそうにしていた。でも、高校生にこんなことされるなんて侮辱受けているとかなんとか、ぶつぶつ言うてたけど、無視しといた。
いや、ほんまに男前や思う。一種の芸術品か思うくらい綺麗な顔や。それを全部仕立てて、私も満足感を得る。そして、次へ行くところへ向かっていた。制服の私とスーツの綺麗な男前。視線が集まるのがわかった。
「峯さん、めっちゃかっこよくなっとるやろ?」
「ああ。…やはり金がないといけないな。見繕うのも安物ばかりじゃ、上に立てねぇ」
「金やないねん。どう着こなすか、やで?私の知り合いなんか、裸にジャケット着てるけど、似合てるもん」
「そんなやついるのか?」
「おんねんなぁ。…あ、着いた。ここ、クラブで踊るで!」
「クラブか。馬鹿ばっかいそうじゃないか」
「峯さん友達おらんやろ。そんなことばっか言うから」
「そんなもんいねぇよ。」
「せやろな。私と同じやん。年上の先輩としかおらへんから、友達いうもん知らんねや。ま、今日は踊って憂さ晴らししよか」
ドアを開けると、音楽が重低音に鳴り響く。露出の高い服装の女の人が多い。行きつけであるので、バーのカウンターにいる人は大体知り合い。タダでお酒を注いでくれた。私はいつも通り、ジンジャエールやけど。それを飲みながら、音楽に合わせて踊る。
「〜〜〜〜〜〜!」
峯さんが何か話しているようだが、音楽のせいで何も聞こえない。近寄って耳打ちする。
「なに?こうせんと聞こえへんで」
「俺は何をすればいいんだ」
「踊ったらええねん。多分峯さんその前に女が押し寄せてくるやろけど」
「…それは困る。まず俺はクラブ初めてだ。どうしたらいいかなんてわからない」
「ほな、見とってよ?」
ダンスフロアに行き、1人で音楽に乗っていると、急に腰に手をかけられた。そして一緒に踊る。キスをしようとしてきたので、鳩尾に一発いれてやった。そして峯さんの元へ帰ろうとすると、既に女が峯さんの横をキープしてた。うわ、どないしよ。女が峯さんにいきなりキスをしていたが、峯さんは振り払い、こちらに来る。
「下品な奴ばかりだ。…出るぞ」
「踊らんくてええねんな。あ、ちょっと!」
そのまま手を引かれ、外に出た。せっかく楽しくなってきたところやったのに。手を繋ぎっぱなしで歩く。
「俺はああいうとこは好かねぇ。女は上品な奴に限る」
「まぁ、何事も経験やで。峯さん、上品な女もええけど、積極的な女の子もええんやで」
「…レンちゃーん、何してんのかなぁ」
「は、この声は…!」
峯さんと私の間に入ってきた人物とは。裸にジャケットで眼帯している人物。峯さんも本当にこんな人がいるのかと目を見開かせていた。真島さんは顔は笑っているけれど、怒っている。もう10年ほどのお付き合いだから。首根っこを掴まれる。あぁ、真島さんはかっこええなぁ。顔が近くてうっとりとしてると、真島さんは少し顔を赤らめた。その後照れ隠しにボケって言われたけど。
「すまんけど、こいつとどういう関係?高校生ではないみたいやけど、見たことないなぁ」
「たまたま会っただけです。少し付き合ってもらいまして」
「真島さん、この人峯さんって言うねん。大学生で、公園で落ち込んでたから、声かけてん。ほんなら憂さ晴らししたいから、言うて付き合ってただけやで」
「ほんま、お前は俺に心配ばっかりかけさせよって。ミネくんいうたか。今日はレンが世話なったな。もうこいつ家送らなあかんから帰るわ」
「峯さん、ありがとう!また会うたらよろしく」
「あ、ああ…」
真島さんと腕を組んで神室町を歩く。最近こういう風に真島さんは私を迎えに来てくれる。どこから情報が漏れてるかわからんけど、絶対来てくれるねん。嶋野組の皆が多分見張ってるんやろなぁ。鼻歌を歌いながら帰路に着く。
「えらいご機嫌さんやん」
「真島さんが最近優しいからなぁ。ほんま大好き」
「…そうか。かわええやつやな」
「可愛い?ほんま?」
「ほんまやで。こんな娘がなんで三十路の俺なんか好きかわからん」
「まだ言うとる。もう、ええ加減わかってよ。真島さんに全部あげれんのに」
「そんなんいいなや。…やっぱりなぁ、女子高生には手を出せへんわ。もうちょっと待ってくれ。ほんまに俺でええんか、よう考えてくれや」
「もう7年ぐらい真島さんのことしか考えてへんのに、まだ考えなあかんとか鬼畜やなぁ。女子高生の体味わえるのも今のうちやのに」
「それはたまらんなぁ…やなくて、お前のこと大事におもとるから、言うてるねんで」
「高校卒業したら、ヤクザなるつもりやからな、刺青入れる前に抱いてほしいねんけどなぁ」
「ほんまか、ヤクザなんのか。…はっ!!??どういうことやねん!!それ!!」
「私ヤクザになるって決めてんねん。止めても無駄やで。口出しされたないから」
真剣に真島さんの目を見て言うと、溜息を吐かれる。そんなん、周りがヤクザしかおらんのに、どうやって普通に生きていくねん。憧れである真島さんや、おとん、桐生さんのように、なりたい。
「なんも言わんけど、普通の女として戻れんなるで。ええんか」
「今だけ普通の女や。…真島さん、今週の土曜日空いてる?」
「え、おう、空いとるけど」
「今決めてんけど、真島さんとゆっくりデートしたいねん。してくれへん?」
「ええけど。なんや照れるなぁ…。」
「…すき」
俯いて歩く真島さんが上を向いた瞬間、唇を重ねた。早く想いが届け。また真島さんの顔が赤らむんがわかった。案外照れてくれるねん。思わず口角が上がる。早く私のもんにならんかなぁ。
「…やってくれるやん。いつもお前は真っ直ぐに伝えてくれて嬉しいねんで。お礼に土曜日のデートは俺が考えたるわ」
「え?ほんま!真島さん、ほんま好き!今日泊まっていってよ」
「アホ、親父に殺されるわ」
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