嶋野のお嬢 | ナノ

  恋人に近づいてる




私の高校は大吾くんと一緒の神室西高校。中3の時、真島さんに振られて切った髪の毛も、もう既に胸の下まで伸びていた。未だに真島さんの事が好きやけど、その気持ちは封印してる。ややこしくなるん、もう嫌やし。かといって彼氏もできてへん。おとんとおかんも心配しとるし、そろそろ彼氏できなあかんな。

言い寄られる数も増えたし、好かれるんは多いんやけど、自分がええって思う人もおらん。はぁ、どんだけ体育館裏行ったらええねん。場所選ばんでも言うてこいや。とは言えず、毎回ごめんなさいをしている。

大吾くんにはよう心配される。大吾くんは堂島組を継ぐために勉強も喧嘩も頑張っとる。私もそれに一緒になって付き合う。毎回、大吾くんのクラスへ行って放課後勉強する。その後街へ出かけて遊びに行くねん。クラブとか、ご飯に行ったり、暴れたり。毎日大吾くんと楽しんでるけど、男関係は全くない。口説かれたりしても、断ってるし、襲われるもんなら、しばいてる。乱闘騒ぎになって、楽しなる。幼馴染の大吾くんと青春してた。


お昼休み、大吾くんの教室に遊びに行っていた。いや、友達おらんとかいらんこと突っ込んだあかんで。周りの子らに色んな目で見られてるん知ってるし。羨望、嫉妬、恐れなど見られてるから。対等で話せるんが大吾くんくらいやからなぁ。

大吾くんの後ろの席に座り、机を合わせておかんが作ってくれた弁当を食べる。大吾くんも弥生さんの作ってくれた弁当を食べる。


「なぁ、レン。お前彼氏作んねぇのか?」

「ん?作らんよ。私が好きなんは真島さんだけやしな。でもそろそろ既婚者に恋するんもやめなあかんしなぁ。誰かおらんもんかな」

「…いくらでもいんだろ」

「それがおらんねや。大吾くん、前のギャルっぽい子とはまだ続いてるん?」

「いや、別れた。金にしか興味もねぇクソ女だったからな」

「ええ?あんないちゃいちゃしてたのに残念やなぁ。大吾くんって美人で色気ある子好きやもんなぁ。大体そんな人やん」

「うっせぇ。…辰雄が帰ってきたから、どけ」


大吾くんの後ろの席であるタツオくんが帰ってきた。いつも学食だそうで、帰ってきたら退かなければならない。


「タツオくん、いっつもありがとうな。どくわ」

「いや、全然いいよ!堂島くんと話してるみたいだし」

「…ほな、タツオくん座って?私大吾くんの上乗るから」

「はぁ!?邪魔だ」


タツオくんに席を返して、大吾くんの上に座る。嫌がるけど、大吾くん優しいから許してくれる。頭を撫でると顔が引きつっていた。それを見てタツオくんは笑う。タツオくんは何となく親しみやすい。アホっぽいけど。


「ははは!堂島くんにもそんな面があるんだね」

「大吾くんと仲良くしてあげてな、タツオくん。私と一緒で不器用やから。タツオくん、野球部やっけ?今めっちゃ頑張ってるねんな」

「え、嶋野さん、野球部の事知ってんの?」

「当たり前やん。一応私もこの学校の生徒やで。大吾くんと一緒にな野球部甲子園行って欲しいなって言うててん。なぁ、大吾くん?」

「…おい、校門のところ見ろよ」



せっかく、タツオくんと会話が盛り上がってたのに、大吾くんは顔を真っ青にして、校門の方を指をさす。なんやおもて見たら、真島さんが校門の前に立ってた。他の生徒たちもヤクザが来たと騒ぎ出す。なんで、真島さんがこないなところにきてんの。気づいたら体が動いてた。走って走って、息が上がって校門の前来てた。


「はぁっ、はぁっ…ま、真島さん?」

「…」


黙って、抱き締められる。落ち込んでるわ、それはわかる。なんや、どないしたんよ。力を込められて少し痛い。何があったんかと先生たちが集まってくる。何の問題も起こさん優等生である私がこないに全校生徒の前で、しかも明らかヤクザな男に抱き締められるのを見られるなんて。真島さんの腕を振りほどき、先生たちに説明する。真島さんは下を向いて黙ったまま。ほんまに様子がおかしい。


「すいません、この方は私の家族です。何かあったみたいで」

「お、おお。そうか。だが、これだけ騒ぎになっているんだ」

「私、早退させてもらいます。すいません、許してください」

「わかった。気をつけてな。嶋野さん、よろしくお願いします」



そう言われると、真島さんは私を引っ張っていく。校門の前で止められてた車に乗り込む。めずらしく真島さんが運転してるらしい。


「真島さん、おいで。ぎゅーしたる」


黙って私の胸の中にくる。多分なんかあって、誰にも吐き出せへんかったんやろ。頭をポンポンと撫でてあげる。しばらく黙って後、小さな声で呟いた。


「離婚してん、俺。嫁が子ども堕ろしてたん、知らんかってあり得んかった」

「ほんまか…」

「愛してる女に裏切られるってこういうことなんやな。この世界でも裏切られることばっかやのに」

「せやな。辛いやんなぁ。泣きたかったら泣いてええねんで。おとんには黙っといたるから」

「もう泣いてるっちゅうねん。…はぁ、レンすまんな。気ぃついたら高校の前きとったわ」

「ええよ。真島さん、なんやかんや、私のこと頼ってるからな。嬉しいねんで」

「やかましいねん。…でも事実やわ。はぁ、高校生に頼る29歳って嫌やわ」

「とりあえず、泣いてばっかのもなんやし、カラオケいく?」

「ありやな。行こか」


抱き締められていたが、離されようとする時、真島さんの唇を奪った。目が赤く、鼻水を垂れている真島さんも可愛いなぁ。なんもなかったように、シートベルトを締める。真島さんを見ると口が開いていた。


「な、なにすんねん!」

「高校生のキスやで。喜びぃや」

「ほんま、誰にでもこないなことしてんのかいな」

「はぁ?」

「なんでそないに怒るねん!」

「真島さんがなーんもわかってへんからや。私はおとんと似てて、どんな手を使ってでも欲しいもんは欲しいねん。真島さん、覚悟してな?」

「ヒヒ、怖いやっちゃ」

「…やっと笑ってくれたわ。真島さんが落ち込むんもええけど、笑ってくれるんが何よりや。カラオケいこ!私な、真島さんの好きな歌覚えたんやで」

「ほなデュエットしよか。ありがとうな、レン」

「お礼言うんやったら、はよ女として見てほしいけどな」

「…ほんま、俺のこと好きやなぁ」

「そう言われたら腹立つねんけど。いつか真島さんにレンおらな生きて行かれへん〜って言わせたんねん。」

「負けん気強いなぁ。そういえば最近大吾と遊びまわってるらしいやんけ」

「あぁ、大吾くんと毎日クラブ行って、喧嘩して楽しいで。私ダンスうまなったし、喧嘩も強なってるわ」

「クラブ〜?喧嘩〜?何してんねん、お前みたいな綺麗な女おったら、絡まれるやろ。大吾守ってくれるんか」

「…っ、私は全員断ってるねん。ほんなら、段々とどうしても仲良くなりたいんか知らんけどしつこなってくるから、そん時はしばく」

「今にやーってしたなぁ。綺麗な女言われて嬉しなったんか?」

「もう、真島さんはいけずやなぁ。そんなん好きな人に言われたら嬉しいに決まってるやん」



大吾くん、ごめん。やっぱり彼氏はできそうにないわ。
私は真島さんの事世界で一番愛してるから無理や。もう、ええ加減こっち見てくれへんかなぁ。運転している真島さんをじっと見つめる。そしたら、真島さんが笑ってそないに見られたら穴あくと言っていた。穴開けたろか。


「…彼氏はできてへんのか」

「ん?できるわけないやん。私好きな人おるんやし」

「桐生チャンは?」

「まーた、桐生チャン、桐生チャンや。桐生さんはあん時だけ!桐生さんも好きな人おるん知ってるし、私の我儘に付き合うてもろただけやから。なんなん、きになるん?」

「うっさいわ、ボケ」


パーキングエリアに車を停める。神室町に着いたようや。まだ時間は昼間なので、まだまだ時間はある。今日はいっぱい楽しませたろ。真島さんは先に降りて助手席のドアを開けてくれた。こういうとこ紳士やなぁ。


「図星なくせに。ほんなら今日だけは悲しいこと忘れて、楽しも!ずっと付き合うたるから」

「…アホやなぁ。お前はええ女やのに俺なんか好きでおって」

「ええ女なんか知ってるねん。それやったら、はよ私のこと好きになってや。…ウソウソ!そんなん好きになろうおもて、なれるもんちゃうし。真島さんが好きになってくれるように頑張るねん」

「…すまんな。俺悪い男やわ。お前の気持ち知ってて会いに来てもうた」

「細かいこと、気にしたら負けや。会いに来てくれたっちゅうだけで、私は真島さんの中で大きくなってんねんもん。ええことやない?」

「プラス思考にも程があるやろ。」

「前向きに考えることだけは得意ですー。さっ、今日からはパーっと行くで!」

「腕組んでもええけど、乳当てんな!」

「成長知ってもらお思っただけやのに。やかましい人やなぁ」

「…」

「あ、絶対今やらしいことおもてたやろ。えっちー変態ー」

「うるさいねん!高校生と腕組んでたら援助交際や、疑われるわ!そないなこと大きい声で話すなや!」



少しは近づけた、っぽい。



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