嶋野のお嬢 | ナノ

  急展開に着いていけない




最近真島さんの様子がおかしい。帰ってくる回数減ったし、なんや、ぼーっとする事が増えた。佐川さんもよー家に電話かけてくるから、2人でこそこそやってるんやろ。あと、真島さん多分好きな女できたな。めでたい事やおもて、赤飯炊いてもうた。

2人で久々に夕食を囲む。真島さんはなんやどっか行かなあかんらしいから、急いで黙って食べてた。はぁ、なんか寂しいなぁ。


「真島さん、女できたやろ」

「ぶっ!なんでや!」

「あからさまに動揺しすぎ。女の勘って鋭いねんで?」

「いや、女はできてへんねんけど」

「詳しい事は聞いたらんとくわ。佐川さんと仲良うやっとるみたいやし。女の人も家来れへんしな。…私、邪魔やったら東京帰るで?」


すると頬に鈍い痛みがあった。あれ、私真島さんに叩かれた?今までそんなこと一回もなかったのに。じわりと瞳に涙が溜まっていく。


「アホ抜かせ!お前おらんなったら、おれ独りになるやん。家族やおもてんのに、そないに寂しいこと言うなや」

「家族ちゃうやん!私やって、真島さんの事大好きやのにやな、最近帰ってこんし、コソコソ隠し事しよるし、真島さんが好きな女できたことくらいわかる!子どもやおもて、甘く見んなや!真島さんなんか嫌いや!」

「ちょ、どこ行くねん!」


頭が真っ白なって飛び出した。涙が止まらん、真島さんのことめっちゃ好きやのに。そら、こんなガキのこと好きになるわけないわ。現実みたらわかるやん。どこいこ、泣いてるし、人目のつかんとこがええな。川沿いのベンチに座る。

はぁ、初恋なんか叶わん言うもんな。これが失恋かいな。そら、私なんか妹か娘としか思われへんわ。溜息しか出やんわ。アホらしいおもてても、涙が止まらんねんけど。誰か話聞いてくれ。いや、友達全然おらんやん。


「おい、何でこないなとこで泣いてんねん」


いや、おったわ。


「龍司くん、ほんま好き」

「抱き着くなや!重たい!何で泣いてんねん!色々ややこしい女やわ!」



隣に座り、龍司くんが来たおかげで余計涙が溢れる。ほんま、よう見つけてくれた。龍司くんはいっつも一緒におってくれるからなぁ。


「なんで見つけれたん?」

「…お前んちに行こおもて、寄ったら真島さんが顔死んでたし、お前おらんかったからな。何かあったんかおもたわ。そんでお前が行きそうなとこ探しただけや」

「凄いなぁ、龍司くんは。ほんま大好き」

「やかましいねん。ほんで何で泣いとったんか早よ言えや」

「真島さんな、最近家全然帰ってこんいうたやん?あれな、多分女できてんよ。ぼーっとしてるし、さっき言うたら、ばれたみたいな顔してたし。私真島さんのことめっちゃ好きやのに、失恋したみたいや。…アホらしっておもとるやろ。東京おった時から、ずっと真島さんのこと好きやってん。面白い人やし、一緒におりたいな、おもててん。でも、こんなガキ興味ないわな。もっと早よオトナになって、めっちゃ色気あるお姉さんになりたいわ」

「そうか…」


龍司くんは黙って手を握ってくれた。不器用なりに慰めてくれているらしい。見た目はいかついけど、ほんまは優しいところもあるん知ってるからな。


「初恋は叶わんって言うけど、ほんまみたいやな。はよオトナになりたいわ」

「レンはレンでええ。そんな焦らんでええやん。焦ってもええことないで」

「やって、今のままやとただのガキやもん」

「…もうええわ」

「えっ、…!」


いきなり肩を掴まれたかと思うと、龍司くんの顔がどアップになって、距離が0センチやって、唇に柔らかいもん当たってて、龍司くんの息が顔に当たってて、思考が停止した。あ、これキスって言うんかな。随分長く感じたけれど、一瞬やったと思う。

ファーストキスだった。


「わしやって、ずっと失恋しとってん。お前が真島さんしか見てへんから」

「え、龍司くんって私のこと…!」

「はいはい、そこまで。レンちゃーん、ごめんね。俺、嶋野から命令されちゃってさ。東京帰せって言われてんのよ」


いきなり腕を引っ張られたかと思うと、佐川さんの腕の中やった。なんで佐川さんがこないなとこにおんの?東京帰る?急展開すぎて頭着いて行かれへんのやけど。龍司くんも立ち上がって、怒った顔をしてる。


「佐川はん、どういうことやねん」

「レンちゃんの親父が東京に帰ってこいって言ってるだけ。坊っちゃんには邪魔していい権利はないけど?ごめんね、せっかくいいところだったんだけどさ。兄弟が怒ってるんだ。今坊っちゃんが暴れるっていうなら、真島を痛めつけるけど?レンちゃんは嫌だよねぇ」

「それだけはやめて下さい。龍司くん、ごめんな。一旦東京戻るから。また帰ってくるから、待ってて」

「レン!クソッ…」

「いい子だね。俺は素直な子大好きだよ。あそこの車に乗ろうか。神室町まで送ってくれるから」


佐川さんに腕を組まれ、黒のセダンに乗り込む。後ろを振り返ると龍司くんが拳を握りしめていた。ほんまにごめん、龍司くん。好きになってくれてありがとう。でもファーストキス勝手に奪ったんは、怒る。


佐川さんには頭を撫でられる。泣いてる私を慰めているみたいや。佐川さんの家まで佐川さんを送って、そこから運転手2人と私だけになる。
佐川さんにもお世話になったなぁ。お礼をしとくと、兄弟の娘や思われへんとの言葉が返ってきた。よう言われんねんけど、おとんはどないな生き方しとるねん。


真島さんにも会えんくなるん、寂しいなぁ。1人でやっていけるんかな。喧嘩なんかせんかったら、ちゃんとお別れも言えたのになぁ。


後頭部座席で、横になりながら涙を流す。意地なんか張らんかったらよかった。大阪今までありがとう。1年だけやけど、楽しかったわ。


これからどないなるんやろう。

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