ヤクザ1年生
シノギっちゅうもんはおもしろい。今日はキャバクラに来ている。今までは売り上げがあまりよくなかった。組長に許可もろて、営業に手を出すことを許されたから、まず店長の教育から。その後、嬢の教育を行うと、質はよくなったと思う。今日は外観を良くしようと上品なソファーや壁紙などを購入して業者に頼んだ。事務所のソファーに座る。横には嶋野組の同じ立場の中地さん。わりかし、仲良しである。
「レンさん、こんなことして店の金やないんやろ。嶋野の親父がなんていうか」
「私のお金や、でもええねん。今シノギでもろとる倍以上の金は請求するから。投資したほうがプラスになるおもてな」
「へぇ、そんなんどこで学ぶん?」
「真島さんからや。あの人凄いからなぁ。株の勉強もしたいおもてんねんけど」
「し、嶋野さん、中地さんお待たせしました!」
店長が勢いよくドアを開けてくる。今日は回収日。封筒を握りしめていた。頭を下げて中地さんに渡す。それを受け取った後枚数を確認した。
「80万ってところや」
「うーん、今月売り上げなんぼやった?」
「600万いかないくらいです」
「まぁ、伸びてるわ。でももっといけたやろ?」
「は、はぁ。」
「嬢もっと増やしてもええで。色んな世代に受ける子とかな」
「善処します…」
落ち着かない様子でそわそわしている。
「なぁ、店長さん。そんな怖がらんでもええやんか」
「はっはい!すいません!」
「…まぁええわ。順調?」
「そうですね…忙しくなったんで、あの子たち最近ストレス溜まってるみたいです」
「そやろなぁ。そういう時は店長さんが話し相手なったりや。売り上げよくなって、競争も激しくなったことやろし、店長さんがおらんとこで揉めてるかもわからん。一人一人気を遣ったりや?」
「はい…頑張ります」
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お金も回収したので、中地さんが運転してくれる車に乗り、事務所へ戻る。中地さんは楽しそうに話す。私のことを気に入ってるみたいだった。一緒にいて飽きないと煙草を吸いながら笑っていた。中地さんは楽しいことが好きだ。頭もいい。喧嘩もそこそこ強い。眼鏡をかけていてわりと男前。真島さんには敵わないけれど。将来出世するんじゃないかと思う。
事務所に着くと、組長が煙草を吸ってこちらを見た。中地さんは、まだ組長の目が慣れないらしい。肩が上がり、姿勢がよくなる。蛇に睨まれた蛙のような気分になるんだとか、前に言っていた。
組長の机の前に行き、封筒を置く。それを取って、中身を確認していた。眉間に皺を寄せながら。
「なんで金が増えとんねん?先月確かあの店50万やったやろ」
「そ、それは「私が投資し、売り上げが伸びたからです。今後、シノギは増やせる見込みはあると判断しました」
「ほぉ、あの店もっと伸びるいうんか?」
「おそらく。嬢の教育とあと、店の外観など改善点はいくつもありますけど」
「はっ、真島に教えてもろたんか?」
「はい、キャバクラの経営の仕方を少し」
「そうか。ほんならあの店はお前に任すわ。好きにせえ」
「え、いいんですか?」
「おう、金増やして持ってこいや」
「ありがとうございます!中地さんもいいですか?」
「え、俺!?なんでや!?」
「中地ィ、お前もっとしゃっきりせぇや。ええもん持っとるのにお前は勿体無いのう」
「…!は、はい!」
あ、中地さん喜んでるわ。私も嬉しいねんけどもな!店任されて、るんるんや。はぁ、真島さんにちゃんと報告せなあかんな。極道になって早3ヶ月、早速仕事をもらえて、嬉しい。頭を下げ、帰ろうとしたら、組長から引き止められる。
「あ、レン、今週の土曜日開けとけよ」
「?何故です」
「本部会あんねんやけど、色んな奴等から連れてこい言われとんねん。わかったな?」
「行きます!」
「ええ返事や。あとあいつに夜9時には帰る言うといてくれ」
「はい、わかりました。失礼します」
本部会、色んな幹部や若頭など集まる会に行けるなんて楽しみすぎる。久しぶりに皆に会えると、今日は嬉しいことだらけや。事務所の扉を閉めた後、隣の中地さんは溜息をついた。今日も家まで送ってくれるらしい。車ないから嬉しいわぁ。
助手席に乗り、車のエンジンがかかる。するとまた中地さんは溜息をついた。そして煙草を吸う。
「やっぱ蛙なってまうわ…」
「そないにならんでもええ思うけどなぁ。ただの怖いおじさんやん」
「自分の父親やからやで、それ言えるん。家でも敬語使っとるん?」
「いや、組長は家ではおとんがいいって言うからなぁ。組長とか言われたら他人になったみたいで寂しいんやって。可愛いところあるやろ?」
「ギャップ萌えいうやつか。まぁ、親子やからやろ。レンも嶋野の親父に似てるって思う部分あるねんよなぁ。」
「え?ほんまに?」
「おう。睨んでるときとか、喧嘩してる時の顔とか、そっくりや」
「…親子やからやろ」
「間違いないわ!」
家に着き、車から降りる。すると家の堀にもたれかかっていた真島さんがいた。中地さんはすぐに降りて、頭を下げて挨拶をする。私はしない。何故なら恋人だから!!この響きたまらんなぁ。真島さんは中地さんに対しておう、と返した。
「待たせてしまいすいませんでした!」
「ええねん!そんなん。いつもレンのこと世話になっとんなぁ。」
「真島さん、来てくれてありがとう!大好き」
中地さんが頭を下げている中、真島さんに抱き着く。うなじを匂うと、真島さんの匂い。たまらへん。
「ちょう待て!中地おるやろ!恥ずかしないんか」
「何を恥ずかしがることがあんの。私は真島さん好きやねんから、別にいいんちゃうん。」
「いや、なんもないです…ええやないですか。仲良さそうで」
「ほら、レン、あかん!中地の顔見てみ!あいつ絶対女おらんでぇ」
「残念イケメン!多分女にもてんねんけど、好きな子ができひんとみた」
「その通りすぎて何も言えまへん。」
「まぁ、また飯行こか。お前とは喧嘩したいしなぁ。ヒヒッ」
「私も混ざりたいなぁ」
「げっ、ほんまですか…!覚悟しときます。ほんなら失礼します」
また頭を下げて、車に乗り帰って行った。残された私たちは手を振る。見えなくなった後、真島さんは抱き着いてきた。ほら、真島さんやって甘々やん。恥ずかしがるけど、おらんかったら全然ちゃうもんなぁ。
「真島さん、どないしたんよ」
「手の届く範囲におらんかったら、不安なるのう。なんもなかったか?」
「ないでぇ。もう子どもやないんやから」
「…若頭やからのう。親父の命令でお前にあんまり構うな言われとんねん。」
「そらそうや。嶋野の若頭がペーペーの私に構ってばっかりやとあかんからなぁ。やから今の時間幸せや」
「もう何なん天使か。はぁ、俺ほんまとろけてまいそうやわぁ」
「ほんならワシが昇天させたるわ」
「痛っっっ!おっ親父!?」
雷親父の拳骨が落ちた。うまいことに私には落ちなかったけれども。おとんが家に帰ってきた。
「家の前で何してんねん!イチャイチャしよって。はよ入れや」
「ほんまや!ご飯食べた?」
「ま、まだやけど、でも」
「ごちゃごちゃやかましいねん!」
「痛い!親父愛が強すぎますわ」
「お前に愛なんかない!レンには愛しかない!ようやったでぇ、レン。頑張っとるなぁ。」
真島さんにはまた拳骨が落ちて、私には頭を優しく撫でられた。家やったら、父親やもんなぁ。ついつい頬が緩んでしまう。
家に入って、おかんが4人分ご飯を用意していた。真島さんの姿がベランダから見えていたようで。もう見慣れた光景。真島さんもなんだかんだ楽しそうなので、嬉しい。
「真島、今度の本部会レン連れてくから、変な奴おったら頼むわ」
「任せてもらいますわ。ちゃんと守ります」
ああ、キュン。
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中地 毅 (ナカジ ツヨシ):眼鏡をかけたインテリ野郎。上の下くらいの男前度。楽しいことが好きでレンのすることすることが面白い。自分より強いと認識している相手に対して、ビビる傾向あり。強気に行けないところが悩み。
力量を測らんと、喧嘩とかやったら、もっとあいつ伸びんのに、との嶋野の親父の評価。
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