▽ 3☆気丈
恋は楽しい。そんなのは嘘だよ。
☆☆☆
「…………お前、酷い顔だな」
見張りで豊臣軍を観察していると、かすがにそんなことを言われた。
ぎくりと嫌な汗が背を伝う。
「あっはー、何のこと?」
「どうせまた英梨のことでも考えてたんだろう。わかりやすいやつめ」
「それ、お前にだけは言われたくない……」
「なッ」
赤面して黙り込むかすが。
当たっているからこそ黙る。だから俺様も黙って遠くの戦場を見た。
「…………英梨には、言っていないのか」
「何を」
「お前の……気持ちだ」
「あはー、俺様忍だし?気持ちなんかないだろ。何言ってんの?」
「お前なぁ……」
かすがは呆れたようにため息をついた。
「そんなことを言っているから、英梨は真田に貰われたんだぞ」
「…………」
後悔先に立たず。
しかし、これほど人生で心を抉られるような出来事は過去も未来にも起こりそうになかった。
いっそ。
いっそ、俺様とは全く関係のない男に貰われれば良かったのに。
「…………猿飛佐助、酷い顔だな」
返す言葉もない。
こんなに顔に出やすかったら、もう忍なんてやめたほうがいいのかもね。
忍じゃなくなったら、英梨と……。
なんてね。
そんな馬鹿げた冗談が、あれからずっと頭を離れない。