▽ 2☆無情
男と女、この世は二つにひとつ。
☆☆☆
「佐助、佐助」
英梨が小声で俺様を呼ぶのが聞こえて、庭から彼女の部屋へと移動した。
「お待たせ致しました、英梨さま」
「二人の時は普通に呼んでよ」
ね、と首を傾げる彼女に、きゅんと胸を撃ち抜かれる。
本当、こういうことを無意識でやるのはズルいよなぁ。
忍には不必要な愛嬌なのに。
彼女はニコニコと微笑んで、包みを差し出した。
「はい、どーぞ」
「なにこれ?」
「お誕生日おめでとうの気持ち」
誕生日?
「…………俺様、今日誕生日だっけ?」
「そういうことにしてる日だよ」
「?」
「前に、かすがと決めたじゃん」
…………そうだった。そう言えば。
確か、俺様たちが出会った日を誕生日にしようって。
英梨が言い出したのだった。
「思い出したみたいだね」
「…………あっは、よく覚えてるねー」
「まあね」
頭だけはいいのさと、艶やかな着物の胸をそらした。
その中身を想像しかけて、慌てて包みに目を落とす。
「開けていい?」
「どうぞ」
やわらかい紙を少し破いて開けると、翡翠のような色をした布が現れた。
「なにこれ」
「はんかちーふ、って言うんだって。手拭みたいなものかな」
「西洋の?」
「多分。でもそれは私の手作りなのです」
「えっ」
ふふんと英梨は子供っぽく胸を張った。
…………どこまでも、人の気を弄ぶ女だ。
嫌な、女だ。
「お守りにしてね」
その笑顔を独り占めしたい。
俺様だけを、大切に思って欲しい。
叶わぬ夢なのに、こうしてまだ想い続けさせられる。
彼女は、悪女。
どうしてこうまで俺様を苦しめるのか。
「ありがとな、英梨!大事にする」
俺様は上手く笑えていたはずだ。
遠くから旦那が彼女の名前を叫びながら走って来るのがわかった。
そっと包みを抱え、俺様は元いた庭に戻る。