06




昨日の私は、今日がこんな日になるなんて想像もしていなかった。
クラスメイトの楽しそうな会話を遠くから聞いて、羨ましがって落ち込んで。事務連絡以外で私に話しかけてくれる人はいなくて。そんなつまらない日を、これからも繰り返すんだと思っていた。

担任の先生がボケて、教室が沸き上がる。私達のクラスはこうして一日を締めくくる。ああ、今日はいい日だったなあ。


財前くん。
私は、彼が怖かった。
彼の雰囲気だったり、整いすぎている容姿だったり、派手なピアスをしていたりするところが、何だか違う世界の人のようで。だから今朝話しかけられた時は本当に驚いたし、一体何を言われるんだろうと思った。
だけど、財前くんは私が落としたプリントを拾って渡してくれて。私が勝手に怖がっているだけで本当は普通の人なのかなぁ。そんなことを考えているとボールが飛んできて、親切にも財前くんが保健室に連れて行ってくれて。……「黙れ」って言われて怖かったけど。財前くんからしたら何の面白みも無い私の話を聞いてくれて。

お前はどうしたいのかと尋ねてくれた。
ゆっくりでいいと言ってくれた。

彼にとっては、それは何気なくしたことかもしれない。同情だったのかもしれない。それでも私には、それがとても嬉しかった。



「苗字」

呼ばれて顔を上げると、荷物を持った財前くん。

「また明日」


無表情で、財前くんはそれだけを言って、教室から出て行く。
ちょっと待って。
私は慌てて席を立って、教室を一歩出たところから財前くんの背中に向かって声を出した。


「また明日ね……!」


誰かに「また明日」と言ってもらえたのは、すごく久しぶりで。誰かに同じ言葉を返すのも久しぶりで。
財前くんはこっちを向いてはくれなかったけど、小さく手を振ってくれて。私は、この人ともっと仲良くなりたいと思った。


今日はいい日だった。
明日もきっといい日になる。

そうやって毎日が、全部私の宝物になるといい。



2012/03/14


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