07
新しい朝が来た、希望の朝だ
喜びに胸を開け、大空あおげ
教室の窓から見る、すっきりと晴れた7月の空。無意識に口ずさんだラジオ体操の歌。
8時20分、窓から身を乗り出して見るテニスコートにはもう人はいないけど、少し前まであそこで財前くんがテニスをしていた。
私の! 友達の財前くんが! きゃー!
「なに一人で盛り上がっとんねん。キモい」
「ぎゃ」
後ろから膝下あたりを攻撃された。
振り返ると、気だるそうに立っている財前くん。彼の「はよ」と言う声は、多分、きっと、私に向けられている。
ありがとう。
「何で“ありがとう”やねん」
「それは、その、お、おはようって言ってくれたから。嬉しくて」
「……志は高く持ちぃや」
はぁ、と小さいため息。
財前くんは頻繁にため息をつく。ため息をつくと幸せが逃げると言うけれど、財前くんがため息をつく間にも「おはよー」「財前くん、おはよー!」と彼に声をかけるクラスメイトが何人もいて。幸せが逃げてくなんて嘘だと思う。
「苗字」
「は、はい」
「クラスメイトに挨拶」
「……う。そんな、急に言われても……」
ヒィッ。睨まれた!
だって、このクラスの人に自分から話しかけたこと、ないんだよ……!
「あいつとか」
苗字でも話しかけやすいやろ。
そう言って財前くんが指さした人は、私の斜め前の席の女の子。教室移動は一人でしているようだけど、休み時間の度に男女問わずいろんな人が彼女のところにやって来る。ポニーテールで、快活そうな可愛い人。
話しかけられて、一度か二度は言葉を交わしたことがある。でもそれだって事務連絡だ。私が口下手なお陰で会話は続かない。
だけど確かに彼女になら、挨拶くらいなら出来るかもしれない。
でも。
「でも、名前が……」
「お前クラスメイトの名前分からんのか」
「じ、10人くらいなら……ギリギリ分かるよ」
「……このクラスになってもう3ヶ月やで」
あ、呆れられた!
「アレは武藤や」
「武藤さん……」
席に着いて携帯電話を操作している武藤さん。一人!チャンス!
「がんばり」
「……押忍!」
2012/03/19