04




「やから昼も一人で屋上におるんか」


財前くんは怒っていた。


「え、し、知ってたの……?」
「お前は自分で自分を一人にしとる」

そんなんやから友達おらんのや。
吐き捨てるみたいに、そんな風に言われて。そんな事、言われなくたって分かってる。でも。

「そんなこと、言われたって」
「なんや」
「……わ、私と財前くんは、違うよ。その、ちゃんと、友達がいる財前くんには、わからないよ」


私だってみんなと仲良くしたい。普通に話したい。だけど、うまく喋れない。どうすればいいか分からない。

はぁ。
ため息をついた財前くんが横目で私を見た。

「そんなん当たり前やろ」

突き放すような言葉に、彼から視線を外した。次の言葉が怖い。
そんな私に、彼はもう一度ため息をついた。


「違うんやから、苗字から言ってもらわな、お前のことなんか分からん」

それは怒ってもいないし、吐き捨てられた言葉でもない。

「苗字はどうしたいん」


恐る恐る財前くんに視線を戻すと、彼は真っ直ぐ私を見ていた。

この人になら言えるかもしれないと思った。財前くんは、私の言葉を拾ってくれる。
言いたい。
私がずっと言えなかったことを。
私が勝手に諦めたことを。


「……わ、わたし、あの、」

言いたい。

「……ゆっくりでええから」
「は、はい。……あの、わたし、」

がんばれ。
財前くんの目がそう言ってくれている気がした。だから言うんだ。


「友達が、ほしい、です」


最後に尻すぼみになってしまった、でも。財前くんは一瞬目を細めて、少しだけ笑ってくれた。それがとても嬉しくて、鼻の奥がツンとした。

「ちゃんと言えるやん」

そう財前くんが言った時にチャイムが鳴って、財前くんは立ち上がる。
だめ、まだ、言いたいことがある。

戻るで。そう言われて咄嗟に財前くんの体操服の裾を掴む。

「あの、」

そして数年分の勇気を振り絞った。

「も、ももももしよければ、お、おともだちに、なってください」

今度は最後まで尻すぼみにならずに言えたけれど、あまりに吃りすぎて、私の言葉は伝わらなかったかもしれない。
不安な私に、彼はまた少しだけ笑って「しゃーないな」と言ってくれた。


目が鋭くて、ぶっきらぼうで、優しい。
私の一人目の友達。



2012/03/12


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