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昔から運動が好きだった。
走ることも、ボールを投げることも、周りの女の子よりもいくらか得意だった。
だから、勉強があんまり好きじゃないのもあって、体育の授業は大好きで。体育と部活だけはいつも張り切っていた。


中学二年生の秋。女子の体育の種目はハンドボールで、その日は試合形式で授業が進められていた。私のチームは僅差で負けていたけど、だからといって物凄く焦っていたわけじゃない。
だけど、私がチームメイトにパスしたボールはその子の利き手の指をくじいてしまって。

謝る私に、その子は「私がちゃんとキャッチしなかったせいだよ」と笑って、気にしないでと言ってくれた。勿論気にしない訳にはいかなかったけれど、その子がそう言ってくれたことに随分と救われた。

その子はとても可愛い子だった。その上快活で、誰にでも優しくて、学年でもずば抜けて人気で。皆からアイドルのような扱いを受けていた。

怪我をさせてしまった相手がその子だったからか、その子じゃなくても同じことだったのかは分からない。

その日以来、私は女の子達から相手をされなくなった。それまでたくさんいた友達も、皆その子の味方をして。無視されることはなかったけれど、でも、親しくしてもらえなくなった。
悲しくて、どうすればいいか分からなくて。私が怪我をさせてしまった子だけは変わらず私に話しかけてくれたのに、私はその子を嫌味な子だと思って避けてしまった。


違う場所に行きたいと思っていた。だからお父さんの転勤が決まった時はホッとして、迷いなく四天宝寺高校の入学試験を受けた。新しい土地で、新しく知り合う人と友達になって、楽しく高校生活を過ごしたいと思った。

でも、もし友達が出来ても、また何かがきっかけで人に避けられるんじゃないかと思うとうまくコミュニケーションがとれなくなって。だから無意識に一人の時間を増やしてしまって。一人でいればいるほど話すこと自体も苦手になって。


「……そんな感じ、です」


久しぶりにたくさんの言葉を発した口を閉じて、少しスッキリした気持ちになった。



2012/03/12


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