02
「ごめんなさい……」
肩に湿布を貼ってもらって保健室から出てきた、苗字の第一声。
意味わからん。
「なんでお前が謝るんや。悪いのは俺やろ」
ごめんな。そう言うたら、苗字は物凄い勢いで顔を横にふった。
「わ、わわ私が、周り見てなかったから、あの、だから」
要は「財前のせいじゃない」って言いたいんやろう。それは分かった。せやけど苗字の焦れったい話し方に段々イライラしてきて、自分の表情が厳しくなっていくのが止められん。
やから、無駄に俺をフォローしてくれとる苗字に、
「はっきり喋れや」
と、思ったまま言ってしまった。
何かあったりちょっとキツい事言われたらすぐ泣く女は、面倒や。
今のは俺が言い過ぎたと思いつつ、こいつも泣くんやろうかと、この先の展開を想像して内心溜め息をつく。そうしながら俯いとる苗字を見ると、意外にも苗字は泣いとらんくて。
ぐっと唇を噛み締めて、床を睨みつけとった。
授業に戻る気になれんくて、苗字を連れて裏庭に行く。もうあと10分程やし、ええやろ。
自販機でミルクティーを買って苗字に投げると、今度はきれいにキャッチした。安もんやけど、一応、お詫びに。
俺がベンチに座ると苗字は最大限俺と距離を置いて、端っこに座った。
別にええけど、露骨やな。
「なあ」
「は、はい」
「人と話すん苦手なんか」
「……はい」
「なんで」
答えたくなかったら答えんでええから。
一応そう付け加えてみたけど、苗字は黙り込んで、またやってもうたと思った。俺、苗字と相性悪いんちゃうか。
ああでも、俺に何や言われても泣かへんかったし。うじうじ話すんが直ったら、やっていけるんかもしれん。
「……私、前は、こ、こんな、喋るの苦手じゃなかった」
ジャージの裾を握り締めて、たどたどしく、苗字が話し出した。
2012/03/02