08
言いたい事を言わへん奴。
したい事をせえへん奴。
苛々する。何を気にしとんねん。
苗字は言いたい事も言わへんし、したい事もせえへん。最悪や。
その上口から出てくる言葉は全部たどたどしいし、うじうじ話すしで、聞き取りにくくてしゃーない。ほんま苛々する。
それでも、あいつにはええところがある。
まず一つ。泣かへん。つい口調が荒くなっても面倒事にならん。
二つ目。苛々すんのを堪えて話を聞いたれば、基本的には素直に何でも話す。口が裂けても本人には言わへんけど、自分が全く素直やない分、そういうとこは羨ましいと思う。
クラスメイトの女子に向かって、意気込んで歩み寄る苗字。歩み寄るっちゅーか、にじり寄っとるけど。……ハントするんやないんやで。
「む、む、むとう、さん」
「んん? どうした苗字!」
武藤がケータイから苗字へ視線を移すと、苗字が驚きを隠しもせずにビクついた。女子相手にあの反応ってどないやねん。
「お、」
「お?」
「……お、おはよう……!」
顔、真っ赤。告白か。苗字見とるとツッコミ追いつかんわ。武藤も固まっとるやんけ。何やこれ、ただの挨拶やろ。
しばらくきょとん顔やった武藤。その後武藤が言うた「おはよー!」に、苗字は半泣きになった。
そのまま俺んとこに戻ってきた苗字。
「また明日」とか「おはよう」とか、たったそれだけでこないに喜ぶ。いつか苗字にぎょうさん友達が出来た時、昇天するんとちゃうか。
「他の奴んとこにも言いに行きぃや」
「も、もう、無理です……心臓がもたない」
「は?」
「財前くんが、友達になってくれただけで、あの、とても幸せで! なのに、お、女の子とあいさつも出来て……思い残すことはありません……」
……。
「あれ。財前くん、顔が赤いよ」
……お前がどストレートやからや。
2012/03/19