Good Good Good Morning



コール音が鳴り続けてしばらく経ち、留守番電話の案内が始まる。『ピー、という音の後に』 そこまで聞いて、携帯を耳から放した。通話終了のボタンを押す。この作業を三回繰り返した。私の背中には、幸村君の冷ややかな視線が突き刺さっている。
朝練は既に始まっているというのに、赤也が来ない。珍しいことだった。赤也は授業中こそ爆睡しているけれど、朝練に寝坊するなんて、これまで一度か二度しか無かったはずだ。それはそれで、学生としてどうなんだと思わなくもない。それでも朝練にきちんと来てくれるなら、もう、なんだってよかった。お願い赤也。一刻も早く起きて。

「赤也と連絡はついたかい?」
「いえ、まだデス」

振り返って答えると、幸村君がにこりと笑う。そして私に「困った彼氏だね」と言う。笑顔の裏から「まったく、苗字は役立たずだな」と声が聞こえるようだ。
ずっと私の行動を見てたんだから、連絡ついたかどうかくらい、聞かなくたって分かるでしょ! ……なんて大きく出ることはしない。出来ない。私は五感が惜しい。だから、私もにこりと笑顔をお返しした。

もう一度、発信する。プルルルルル。プルルルルル。出ろ、出なさい、出てください。プルルル。

『……へーい』
「あっ、赤也!」
『んあ? 名前さんじゃないっスかぁ』

なんとものんびりした声だ。コイツは自分の状況が分かっていないらしい。

「赤也、朝練始まってるよ!」
『え。は、マジ? ……やべぇ』
「そうだよヤバいよ! 早くおいで!」

幸村君がお怒りだよ。そう言おうとして、やめた。言わなくたって赤也の頭の中には般若のような幸村君がいるだろう。とにかく、早くおいで。
もう切るね。二度寝しちゃダメだよ。わかった?と念押しした私に、うっす、と赤也が答えた。しっかりした声だった。私は少し安心して、通話を終える。だけどすぐに、私の携帯が着信に震えた。赤也だ。

「もしもし?」

どうしたの。

『名前さん、おはよーございます!』

ニヒ。電話の向こうで赤也が笑った。おはよう、赤也。




2012/08/07

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