こんな食卓を夢見てる




目を閉じとってもわかる。カーテンの隙間から部屋に差し込む、やわらかい光。ふわふわと妙に体が軽いなと思っとると、次第に、俺を包むタオルケットの感触がリアルになる。自分の体重もくっきりしてくる。
今日も朝練や。起きなあかん。けど、タオルケットのちょうどいい温もりに、このままもう一眠りしたくなる。
いつまでも目を開けられずにいると、開けっ放しの部屋の扉の向こうから声がした。

「ユウジー! あんたいつまで寝てんのー!」

このやかましい女の声は、俺のオカンやない。そうか、今日はあいつが来る日やった。思い出して、俺はのろのろ起き上がる。あくびを一つすると頭は少しスッキリした。

制服に着替えて一階におりる。味噌汁の匂いが鼻をくすぐる。キッチンに顔を出すと、制服の上にエプロンを着けた名前がせかせか立ち働いとった。きれいな立方体にカットされたとうふを味噌汁の鍋に投下して、熱したフライパンに油をひく。卵をおとす。ネギを刻む。細かく細かく。

「おはよ」
「おー」

名前は手元を見たまま。そない細かく刻まんくても、と思ったけど言わんことにした。邪魔したら怒られてまう。

俺のオトンとオカンが揃って朝からおらへん時にやって来て、食卓をととのえてくれる名前。うちの隣に名前の家族が越して来たんは6年前やったかな。幼馴染と言うには過ごした時間が短いけど、ただのクラスメイト、ふつうの友達、そんなんやない気がする。
顔を洗って食卓につくと、ご飯、味噌汁、卵焼き、焼き魚が並べられる。日本の朝ごはん。出来立てのええ匂い。名前ちゃんはいいお嫁さんになるわあとオカンはよく言うが、俺もそう思う。もしもうっかり小春と結ばれず、名前が売れ残っていた時には、俺はこいつを嫁にしよう。きっと悪うない。

エプロンを外して、名前が俺の向かいに座る。

「はい、お醤油」
「おう」
「いただきます」
「いただきます」

のんびりする時間は無いけど、アツアツの白米を口に運んで、卵焼きを頬張って、全部を味わって。いつも素直に褒められへんけど、こいつをのみこんだら、「うまい」って。今日こそは言おうと決め、ちらっと名前を見た。
きれいな箸使いの女がそこにおる。その所作が、朝一番のやかましい声とはちぐはぐに思えて、おかしくなった。




2012/07/15

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