When you lose your way,I'll bring you a lamp.

黒の教団は世界各地域に支部が存在する。オセアニア、中東、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ。そして中国にアジア支部があることを思い出した私は、急ぎそこの知り合いを頼ってその支部に保護を求めた。
少年の心臓、彼の人にそっくりの顔を持ったノアに穴を開けられたはずだけれど、イノセンスが形を変えて傷を塞いでいた。不可思議な現象だ。少年は私に希望を見せてくれた。私が生きていることは言わずもがな。

左腕のイノセンスを破壊されてしまったことで、少年は今片腕だけれど、彼はこの支部でイノセンスを復活させることを選んだ。アジア支部の人間が協力をしてくれるらしい。まだ歩き続けれることを知った少年の顔はどこか嬉しそうだった。どうしてもイノセンスを求める少年は、どこまでいってもエクソシストなのだろう。

さて、と。封印の扉の前で小さな友人と向き直る。彼女の赤い瞳は鋭く私を見定めている。


「もう二度と会えないと思っていたよ、フォー。それから少年と私を助けてくれてありがとう」
「その顔、もしかしてと思ったがテメェ…メアリーは死んだはずだ。オマエは誰だ」
「ふぅむ。ヘブラスカにも同じニュアンスのようなことを言われたよ」


折角の感動の再会なのに悲しい。よよよ、と泣き真似をすると彼女の額に血管が浮いた。あまり刺激するのは止そう。彼女はキレやすい性格をしているのだから。


「真面目な話をしようか。AKUMAに内蔵された魂と自我が別物なのは、勿論知っているよね?」
「ああ。だからこそオマエは誰だと聞いている」
「実のところ、私も正しい答えをわかっていないんだけどね。人間だった頃自分を実験対象にしていたこともあったから、それが関係してるのではと睨んでるのだけど」
「十中八九それだろ」


無駄に警戒して損した、とフォーは肩の力を抜いた。友人にその物言いは酷いな、傷つくよ。


「けどあの…ウサ耳伯爵?の魔術に対抗できるなんて思わないだろう?」
「千年伯爵な。強ち的外れなこと言ってるわけじゃねぇだろ。オマエ、そういう狡賢いもん得意だからな」
「狡賢いなんて言い方、止めて欲しいな。天才と言っておくれ。ついでにその後ろに科学者をつけて」
「バカバクみたいなこと言ってんじゃねぇ」


ふむ、フォーは変わらず厳しいな。けれどこういうやり取りが懐かしく、嬉しくて仕方がない。こういうのはやはり長い付き合いの者とじゃないとできないからね。


「…AKUMAってのは、どんな気持ちだ?」
「私の話は当てにならないよ」


クスクスと笑って、「けど」と続けた。


「あまり、いいものではないね。内臓された魂と自我が一致してる分、魂の嘆きってのは少ないみたいだけど、その分殺人衝動に振り回されそうになった時はつらい。本能の操り人形、ってのは不名誉な称号だからね」
「……」
「それに、人間だった頃の、人間の友人の誰にももう会えないのは寂しい」


腕を組み、目を伏せた彼女にフォーやヘブラスカに会えるから、その寂しさは紛れるけどね、とへらっと笑った。


「…だとしたら、ここにいる間退屈でその寂しさが紛れんだろうな」
「友人が変わらないというのは嬉しいね。君の不器用な優しさは昔のままだ」
「るせぇよ!そういう意味で言ったんじゃねぇ!」


図星をつかれるとムキになる点も、変わってないみたいだ。

△▼△▼

体力を回復させた少年は、えーっと、追い込んで火事場の馬鹿力作戦?だったか、それにフォーに協力してもらってイノセンスを復活させようとしているらしい。訓練も何度か見学した。けれど左腕は一瞬形を取るだけで、すぐに霧になってしまう。
いい結果を出せない少年は焦りを生じ、フォーに一喝されて八つ当たりし、現在進行形で目の前で落ち込んでいる。


「メアリー、僕、どうしたら…今までどうやって発動してたのかわからないよ…」


情けない声だ。暗い闇の中で迷子になっている子供のような、そんな声。不甲斐ない顔を晒すために少年の白い髪を掬い上げた。


「アレン、とても焦っているね。何に焦っているか、ゆっくり、私に教えてくれないかい?」


スローテンポで、何度も拍を置きながらアレンに尋ねた。子守唄のようなテンポで、緊張を緩めるように問い掛けると、少年の心音は心なしか落ち着いたように思える。俯き、戸惑いながら少年は唇を動かした。


「早く、皆のところへ行かなくちゃいけないのに…早く…」
「うん」
「なのに僕のイノセンスは答えてくれない。わからない…僕は、僕はどうすればいいんだッ!」


少年の悲痛な叫び声は己の身を傷つけているように聞こえる。
少年の命の危機とイノセンス発動の因果関係はないように思える。けれど心理状態は。それが関係するのなら暗闇の中へ迎えに行ってあげないといけない。頭を働かせてランプに火を灯す。


「…少年。少年はどうしてそんなにイノセンスを求めるんだい?」
「どうしてって…僕はエクソシスト、だから…」
「今はそういう思い込みは止そう。少年、どうして君は歩き続けることを決めたんだい?」


歩き続ける。マナが口癖のようによく言っていた言葉だ。今や少年の糧になっている言葉。問いに少年ははっとした表情をした。


「それは…全てのAKUMAを救うためで…でも、今は皆を守りたくて…」
「そう」
「欲張り、かもだけど…全部助けたいんだ。人間も、AKUMAも、…全てを」
「リナリーもジュニアも教団の皆も、AKUMAも?」
「もちろんメアリーだって」
「私も?私は今や人間でもAKUMAでも、それ以外の何かかもしれないのに?」
「メアリーは……メアリーだよ」
「意味がわからないよ」


ともかく少しは頭の整理がついたかい、と言うように間を空けた。


「さてアレン。どうして君はイノセンスを求めるんだい?」
「僕の守りたいものを守るために。そのために僕はイノセンスを求める」


迷子の少年。道標が必要なら私が与えてあげよう。
スン、と鼻を鳴らして友人の匂いを嗅ぎつけた。こちらに向かってきているようだ。少年、君は恵まれてるね。ランプを持って行ってあげるのは私一人じゃないようだ。緩やかに、微笑んだ。

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