I will ask you again,what do you want for?

アジア支部に結界を打破したAKUMAが侵入した。ノアの方舟の力は強大であり、結界を破ることは容易いと見える。そして何より侵入してきたAKUMAのレベルは3。ユーラシア大陸には滅多に存在しない超強敵だ。レベル2とは桁違いの強さであり、ウサ耳伯爵が支配している日本が巣窟にされているという。
現時点でアジア支部にエクソシストは滞在していない。AKUMAを破壊できるのはイノセンスのみ。対抗手段はない。そのため守り神の守護を利用して道を閉ざし、フォーが少年に擬態してレベル3の時間稼ぎの囮になることになった。


「今度こそ最後になるかもしれないからよ。今のうちに言っとくぜ、メアリー」
「……フォー」
「あたしも、オマエにまた会えて嬉しかったぜ」


無情にも北区への入口は目の前で閉ざされた。心優しい少年は勿論自分が行くから、と言うけれど、少年はイノセンスの適合者。人数の少ないエクソシストをこれ以上減らすわけにはいかない教団は少年を行かせることに決して賛成できない。戦えない適合者を戦線に出すわけにはいかない。そのためなら囮役を選出するのもいとわない。それが、戦争だ。

それでも尚納得のできない少年は支部長に掴みかかる。まるで聞き分けのないお子様だ。重い溜め息を吐けば、少年はこちらを向いた。


「メアリー…怒っ、て」
「怒っているか?ああ怒っているとも。真面にイノセンスも発動できないのに、行ってどうするつもりだい?今のアレンなら私のデコピンでも殺せるよ」


試しにやってみせようか?と指を構えるとはったりでないと知っている少年は肩をビクつかせた。

一度死にかけた少年。君がまた奇跡を見せてくれるとは限らない。優しい少年。その優しさが、他の何かを傷つけるかもしれないということを、君はきちんと理解しているのか。否、何もわかっていないだろう。わかっていたら君はこんなにも苦しんでいないはずだ。


「知っているはずだ、少年。AKUMAを破壊できるのはイノセンスのみ。エクソシストだけだ」
「そうだ!イノセンスが復活していない今の君はただの人間でしかないんだぞ!」
「違う!!」


吐き捨てるように少年は強く否定した。


「僕は…っ、僕は…人間じゃない」


AKUMAを、破壊するものを見た瞬間全身の血が騒いだと少年は言った。自身の存在そのものがイノセンス。本当に求めているものはAKUMAだったのだと。この左目がそれを証明している。若干15歳のエクソシストはAKUMAに魅入られた。


「僕はもう人間じゃない!エクソシストです…戦場に戻らせてください。AKUMAのもとに」


少年の涙が地面に落ちた途端、ウォンと李桂の背後に少年のイノセンスが具現化した。眩い光が視界を支配した。
僕は前に進む、そう言った少年をもはや止めることはできず、支部長は道を開いた。

△▼△▼

イノセンスを求める少年よ。自ら過酷な道を選んで歩む君の傍らに対極に存在する私はあるのだろうか。

水面から飛び出している右腕に心を傷めている人ばかりだけど、私はそうは思わない。もしイノセンスに意思があるのなら、それはきっと少年の心に応えてくれるだろう。


「アレン。君は何のためにイノセンスを求めるんだい」


答えなら、聞かずともわかる。

レベル3にはわからないのだろうか。この部屋に高エネルギーのイノセンスが充満していることに。私を壊すものが少年の手に戻るというのに、なぜ私は心のどこかで喜びを感じているのだろう。少年、アレン。君は決めたんだね。

強い光を放って何かが噴出した。シルバーの仮面に白いマント。少年だ。口元に笑みが浮かぶ。
レベル3を圧倒する少年のイノセンスは完全な復活を意味していた。どこか澄ました表情をしている少年は、今までとは違い、まるで別人のように見えた。まさしく道化役者だ。

白い道化のイノセンス。これこそ少年のイノセンスのあるべき姿。正しい発動。
後にアレンのイノセンスは神ノ道化と名付けられた。

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