Please also give me a dream,if you have it.

咎落ち。それはイノセンスとのシンクロ率が0以下になった時、あるいはイノセンスの意志を裏切った際に起こるイノセンスの暴走現象。一度咎落ちに陥ればイノセンスが体を蝕み、強大なエネルギーを放出して破壊行為を続けることでやがて生命エネルギーを使い切り、24時間以内に死亡する。
かつて黒の教団で行われた裏の実験を見学した際、この現象は何度か見てきた。人によればトラウマになるだろう光景だ。

咎落ちしたスーマンというエクソシストを救うため、少年は一人あの巨人のような形態のイノセンスに突っ込んでいった。そして状況を見守ること少々、強烈な光を放ち二人は竹林に落ちて行った。


「少年、どこだい少年!いたら返事を!」


月明かりだけが頼りになる中を、声を上げながら走り続けた。少年、とまた叫ぼうと思った時、淡い光が映った。さくり、と笹の葉を踏んで近寄るとティムキャンピーが私の頭の上に着地した。
少年はスーマンらしき男の前で膝をついている。スーマンの様子を見れば、まるで脳死のような状況になっていることが見て取れる。生きているけれど、死んでいる。


「まだだ…終わりじゃない。彼はまだ死んだわけじゃない。まだ生きているんだ」
「…咎落ちして生存した前例は聞いたことがないよ」
「生きていれば、何かきっと、新しい希望があるかもしれない」
「……」
「僕はそう信じたい」


少年は優しすぎる。その優しさが他人を、自分を傷つけることだってあるのに。スーマン、帰りましょう。そう少年が手を差し伸べると、いきなり彼の頭が割れて、そこから大量の黒い蝶が飛び出した。何が起こったのかわからない。二人でそんな顔をした。
蝶がスーマンの体を貪る。止めろと少年は蝶を毟るけれど、体が痛むのかその場にへたり込んだ。やがて蝶は空へ舞い、スーマンは跡形もなく消えていた。

痛みと、涙を耐える少年に蝶が襲い掛かろうとする。小さな体では庇いきれないだろうけど、少年の前に立ち塞がった。痛いの、我慢しないとな。


「ティーズ」


若い男の声。誰かいる、と背後の暗闇へ目を向けた。その男の「おいで」という言葉に、大量の蝶は彼の両手に吸い込まれていった。そしてまたそこから二羽の蝶が生まれる。蝶の胴の部分の骸骨から寄生が発声された。ゴーレム、のように思う。

黒い肌、黒い髪、金の瞳。「の、あ…?」少年が私の言葉を代弁した。

「きっさまぁあああ!!」恨みのつのった声を上げた少年は直後、傷を堪えるように呻いた。慌てて少年の体を支える。


「あれっ、お前っ…イカサマ少年A!?」


なんだその呼び名は、とティムと二人頭の上に疑問符を発生させた。
一歩ほどの距離を置いた品の良い男は今のオレじゃわかんないか、と呟いた。少年と面識があるのか、とシルクハットで影のできた顔をよく覗き込む。と、はっと息を呑んだ。
彼と、同じ顔をした男。「  」唇が声なく彼の人の名前を紡いだ。彼の人を彷彿させるティムキャンピーが周りを飛んだ。違う。彼じゃない。同じ顔をしているだけ。それだけだ。

ベラベラと目の前で語る男の頬を少年が左腕で叩いた。それで現実に引き戻される。もう一度拳を振りかぶった少年の左腕を男は受け止め、さらに骨を砕いた。
嗚呼少年、少年、アレン。瀕死の君を庇って、ノアに対抗する手段を私は持っていない。


「オレは今、とある人物の関係者を殺して回ってるんだけどさぁ。少年は、アレン・ウォーカーか?」


とある人物。誰。彼、ではないはずだ。二人の関係はまだ露見していないはず。ならクロス?もしくは、マナ?推測できる人物が何人かピックアップされる。冷や汗が額を伝った。

男が少年のイノセンスを切断する。呻き声が耳に痛い。落ち葉の上に転がった少年の左腕を、男は破壊した。霧状になった少年のイノセンスは男の手から零れ、ハズレか、とスーマンのイノセンスを見つめながら男は言った。


「…逃げろ、ティム。スーマンのイノセンスを持って、逃げろ…」


ふるふる首を振るティムに、少年は行けと言った。ティムがいないとクロスの居場所がわからないから、と。少年、覚悟を決めている。コツリコツリと足音をさせて男が近付いてくる。もう一度行けと少年が言うと、ティムはイノセンスを飲み込んで月に向かって飛んで行った。私はぎゅっと少年の体を庇うように覆い被さる。


「メアリーも、逃げて…」
「No」


聞けない、と耳元で小さく返した。


「健気だねぇ、お嬢サン。身を挺してまで少年を庇おうとするか。でも、今は邪魔だな」


長い足が横っ腹にぶち当たる。大きく竹がしなった。

少年。少年が希望を見るなら、私にも見せておくれ。周囲が明るくなっている。夜明けだ。男の腕が少年の胸の中に沈んでいく。少年、待って、少年。血を吐いた少年に顔を歪めていると、一匹のAKUMAがやってきた。


「お前、そこのお嬢サンを殺っとけ」
「ヒャッハー!ありがとうございますノア様!」


少年の次は私、か。歓喜の笑い声を上げるAKUMAの銃口が私に向いた。その間に男が少年の胸をまさぐり、トランプを抜き取った。見ている間に銃声。AKUMAの血(オイル)が体の中を駆け巡る。ぽつりぽつりとペンタクルが表皮に現れた。


「よい夢を、少年。お嬢サン」


最後に見たのは男の顔と、ジョーカーのトランプだった。

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