弟達が失った日

わたしのママにして、親友にして、大事なトリシャは流行病で亡くなってしまった。結局パパは間に合わなかった。ばか。

トリシャはわたしと違って普通の人間だから、いつかは死んでしまうとわかっていた。さよならはいつか来る、って。わかっていたから、わたしはパパじゃなく、ママの傍にいることを選んだ。パパとは今までずーっと一緒にいたけれど、ママと築いた時間はわたしの中ではまだまだ短いから。
いつか別れが来るから、その時までの時間を大切にしたかった。でも、別れがこんなに早いなんて誰も思わないじゃないか。幸福な時はまだ始まったばかりなのに。悲しいなぁ。苦しいなぁ。
そういうわけで、わたし達を遠い空から見守っててね、トリシャ。そうしたらこの胸の痛みも少しは和らぐだろうから。

パパは数年前に大事なことをするために旅に出て行ったきり、帰ってこない。少しは帰ってくればいいのに、ってちょっと思っちゃうけど、これはわたし達にとって本当に大切なことだから我慢。だからパパとママがいない間は、わたしがしっかりしなきゃいけないの。お姉ちゃんだからね。

わたしには二人の兄弟がいる。わたしよりうーんと幼いけれど、とても賢い弟達。そんな自慢の兄弟の二人のエドとアルは、ママに褒めてもらえた日から錬金術にどんどんのめり込んでいった。それとも血筋?どっちでもいいけれど、二人は錬金術の勉強を熱心にし出した。今ではもう立派な錬金術師。
トリシャが死んでしまったから、わたしはここらでパパのことを探そうと思う。だから二人が錬金術師に弟子入りすることに賛成した。泊まり込みの修業も許可してあげる。旅で家を空けることが多かったから。ちゃんと、家には帰って来るけどね。
エドとアルが錬金術の研究をしている間、わたしは家から離れてパパの情報を探し回る。でも今回も特に収獲なし。パパったらどこまで行っちゃったんだろう。もしかして、迷子?


「エドー、アルー、ただいまー。帰って来たよー」


よいしょ、と重たいキャリーバッグを玄関に押し入れて革のブーツに手をかけた。おっかしいな?いつもならおかえりーって可愛い声で迎えてくれるのに。まだピナコのところで夕食を食べているのかな?


「エドー!アルー!いないのー?」


リビングにはいなかった。二階、は丘に上がる途中明かりが点いていないのを見ていたからいないだろう、と当たりを付けて、ふとパパの書斎のことが頭を過ぎった。錬金術の本がたくさん置いてある部屋。最近の二人は錬金術にお熱みたいだからもしかして、と思って書斎のノブに手を伸ばした。


「エド、アル。ただい、ま…ぁ…ああああああ!!」


噎せ返る血の臭い。床に倒れている兄弟と鎧と、それからナニか。


「エド!エド!しっかりして!エド!!」


懸命に名を呼び掛け、止血をしながらナニかに目を向けた。ナニかは、見ようと思えば人間に見えないこともない。程遠い形をしていることに変わりはないけれど。

エドとアルはママが亡くなったことをとても悲しんでいた。二人共まだ10歳程だから、母親を恋しく思う気持ちが大きいのだと思う。その気持ちはわたしよりもずっと。そして同じ錬金術師として、二人が何をしようとしていたのかが、わたしにはわかってしまった。

発達した科学、錬金術には犯してはいけない領域が存在する。その中でもこれは倫理的にも、原理的にも出来てはいけないこと。


「エドワード…アルフォンス…なんてことを…!」


わたしの兄弟はその日、禁忌を犯した。

mae ato
mokuji

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