拗らせた反抗期
賢者の石。それさえあれば何でも出来ると言われる、万能の石。その正体は魂を原料とした高エネルギー集合体。魂とは、すなわち生命エネルギーのこと。わたしはそのエネルギーを分け与えられた存在にすぎない。だから紛い物。
「無様な姿ね」
「賢者の石…賢者の石をぉおぉおお!!」
「あげるわけないじゃない」
大嫌いなアイツとの戦いは最後は人間側が勝利を収めることとなった。自慢の弟の拳で、アイツが見下し続けていた人間の力で倒された。発達した科学、魔法のような術、錬金術なしで。神の力とやらを手に入れたのにも関わらず、それよりも下等とされる人間の力で。
「なぜだ…お前に知識を与えてやったのは誰だと思っている。学を授けてやったのは誰だと……」
アンタのそういうとこが嫌いなの。そうやっていつも自分の方がわたしより上に立っていると言いたげな態度。わたしがアンタの思うように動くだろうと考えてそうな言葉。
「わたしね、アンタのこと大嫌いだった」
理由なんて山ほどある。アンタのムカつく笑いもそうだけど、もっと大きな、もっと別な理由が。明確な理由が。
「パパに抱えてもらえる回数はわたしよりアンタの方がずっと多かったし、パパへのプレゼントの回数もアンタの方が多かったもん」
理由は嫉妬でもあった。パパを独り占めするアンタが嫌いだった。パパはわたしのパパなのに。何度もズルいと思った。何度アンタの立ち位置を望んだことか。どうせアンタはわかってたんでしょ?わたしがアンタのことを嫉妬の眼差しで見ていたことを。
「子育てなんかしたことないパパが、わたしを一人で育てることなんて無理な話だった。わたしの顔を見て、困った表情をして…。そういう時、必ずアンタが口挟んだのよ。最初会った時わたしのことを『そんなもの』呼ばわりしたくせに」
そんなものなら放って置いてくれたらよかったのよ。変に干渉しないで欲しいものだわ。変に情を注がないで欲しかった。
「わたしを抱っこしてくれたのも、頭を撫でてくれたのもパパだったわ。アンタはわたしのことを見下して知識を披露するだけ。パパが教えてくれれば、わたしにはそれだけで十分だったのに」
わたしにとっては……そう、いらないものだった。パパが教えてくれたらそれでよかったもの。きっとね。でもアンタはそうした。まるでそうすることが正しいかのように。
「だからわたしはアンタのことが大嫌いなの」
そうよ。嫌い。だからこの顔が歪んでいるのは、アンタがいなくなることで清々するから。わたしを裏切ったアンタが消えるから。
長い長い一人語りも、ここらで終いね。アンタは真理の前に連れて行かれ、それ相応の罰を受ける。もう二度と顔を合わせることもないだろうね。
「バイバイ。フラスコの中の小人、ホムンクルス。……そして、わたしの“パパ”」