初めての
「ようこそ、私達の家へ」
あの日パパに家に入れてもらえて、その後に出会ったアイツを見て、わたしは目をこれでもかと言うくらい丸くしていたと思う。フラスコの中の変な黒いもやもやが喋った。見たことがないものが目の前にいて、アイツはそんなわたしを見てニヤニヤしていた。
「そんなものを拾って……。見たところ孤児か?となると名前も持っていないんだろう。付けてやろう」
「ちょっと待て。この子の名前は俺が付ける。そうだなぁ…テオ。テオなんてどうだ?」
テオ。わたしの最初のプレゼントはそうやってもらった。テオ。もう一回口の中で呟いた。いい名前。
「孤児となると知識もないんだろう?どれ、私が教えてやろう。まずは文字だな」
「の前に飯だ!ったく、少しは体の心配を先にしてやったらどうだ」
わしゃわしゃと、クセルクセス人特有の金の頭をパパは撫でまわした。シチューなら食えるだろ、と。こくりと頷いてみせると笑みが返ってきて。胸がほっこりした。空腹とか寝床とか、今までそんなことばかり考えてて、幸せなんて考えたことなかったけど、いいものみたい。フラスコの中の何かも、微笑ましげに笑った。
初めて名乗る名前を持った。初めて帰る場所が出来た。初めて笑いかけてもらえた。初めて頭を撫でてもらえた。初めて、幸せというものを知った。
小さく笑うと、パパもフラスコの中の何かも笑った。なんか、いいね。