娼嫉の理由
エンヴィーの何が嫌いってね、アイツの笑顔ととても似ているところ。他のどのホムンクルスと比べてみても、その顔を見るたびにアイツのこと思い出すから嫌なのよ。そしてわたしと被るところもあるから?ううん。こっちの方の理由はそれほど大きくないね。
エンヴィーの本体は実に醜く、浅ましい姿だった。普段の姿は醜い姿を厚い皮で覆った、ただの偽物。嫉妬の名が大変お似合いね。そんな形で人前に出るのは恥ずかしいでしょうから。
「ソイツを寄越せ!鋼の!」
案の定、というか何と言うか、マスタング大佐さんは壊れる、一歩手前だった。大佐さんの激情からか、エンヴィーからはいつもの苛立つ表情が消えていた。あんな鬼よりも怖い形相で何度も殺されたら、そりゃ普段の余裕なんて無くなるよね。
壊れた人間。堕ちた人間。崩れた人間。そんな人はこれまで生きてきた中、何人も見てきた。だからこそ、マスタング大佐がその中の一人の内に仲間入りしようがどうなろうが、わたしの知るところではなかった。
けれど人間の面白いところは、そんな状況でも立ち直る人もいるということ。立ち上がらせてくれる人がいるというところ。
「エンヴィー…お前、人間に嫉妬してたんだ…」
これまで蔑んできていた人間に――その中でも特に見下していたようだったエドに――“理解”されたことにより、エンヴィーの自尊心は打ちひしがれ、とうとう最後は自ら命を絶つ結果となった。「卑怯者め」マスタング大佐のその言葉は、まさに的を得ていると思った。
ホムンクルスは全てアイツから生まれた。つまり元を辿ればアイツの性質。
――人間に嫉妬していた。
アイツの本心がどうであろうが、わたしはアイツが嫌い。本当は、本心では人間を羨んでいようが、わたしはアイツが大嫌い。
だって、わたしがアイツを嫌う理由はそんなものじゃないもの。