人は強く、脆い

白い人形を何回潰した時だろうか。背後で爆音が響いて、エドが封じたはずの壁が吹き飛んだ。皆の中で一番壁の近くにいたわたしは驚愕。


「手を貸した方がいいかね?鋼の」


マスタング大佐だ。あちらこちらでそれぞれが動いてるみたい。
にしても焔の二つ名は伊達じゃないみたいね。一気に一掃しちゃった。エドは思うところがあるみたいだけど、マスタング大佐さんのこれは敵、という言葉は尤も。ああでも彼らも、とわたしも考えてしまう。

と、また轟音。今度はシンのお嬢さん――メイという名みたい――とエンヴィーが天井から落ちてきた。もうちょっと静かに登場出来ないのかな?
タタタ、とこちらに避難してきたメイはわたしを見て、大きく体を震わせた。スカーに怒鳴られた時以上に震えるなんて。わたし悲しい。


「何、ですか、あなた…人間じゃない…!」
「ん?…んー、確かに人間とは言い切れないかな?」
「お父様から聞いたよォ。“紛い物の賢者の石”なんだってぇ?」


ニタァって、また私の嫌いな笑みを見せて。わたし、そのアイツを思い出す笑みが嫌いなの。ああ、エンヴィーも元はアイツだっけ?
メイはわたしをどこか驚いたような、物欲しそうな顔で見つめてきたけれど、そっと無視した。


「イエス、と答えておくけれど、わたしアイツのこと大嫌いだから出来るだけアンタと話したくないの。話しかけないで頂戴。気分が悪い」


嫌悪感をこれっぽっちも隠さずに吐き捨てると、エンヴィーはつまらなさそうにしながらも、わたしに話題を振って来ることはなかった。代わりに振ったのはマスタング大佐とスカー。

んー…ちょっと私の脳味噌は休憩。なんだか因縁もあるみたいだしね。今のわたしに関係はない。ヒューズ、という名前が出てきたけれど、軍人さんの友達だったのかな?殺されたって聞こえたけど。この性悪さ、やっぱアイツから生まれただけあるんだね。


「エド、行くよ」
「けど…」
「鋼の。コイツは私の獲物だ」


ほら、軍人さんもこう言ってるみたいだし行こう。キメラさんもわたしに同意してくれたしね。足止めしようとしたエンヴィーに間髪なく大佐さんが炎を向けた。容赦もなし。相当の恨みが積もっているのだろう。そしてわたし達には時間がない。やるべきことがある。

チラリ、と去り際にマスタング大佐さんの瞳を見た。人間って思った以上に強くて、脆いからね。――壊れないといいけど。少しだけどうでもいいや、と思った心に嘘はないよ。

mae ato
mokuji

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