一番の想い人
「ねぇ、パパ。とうとう明日だねぇ。……で、まだ?」
「そうだな。いよいよだ。…で、まだ…食えないな」
「えー!あとどれくらい待つのぉ」
「あともう少し」
それ聞いたの何回目、とぶーぶー口を尖らせて文句を垂れる。焼き芋が食べられるのはいつなのよ。
アイツの計画が完了するのは明日。約束の日。とうとうここまで来たね。長かったね、と話した。
「ホーさん、客だよ」このスラムの町民さんがそう教えてくれたことに振り向くと、そこにはエドとその愉快なお仲間さんがいた。深刻そうな顔つき。パパが焼き芋をくれたから、とりあえずわたしはそれ食べとこっと。「来たか」と深刻そうな顔つきで立ち上がったパパをエドは殴った。右腕の鋼の義手で。ウケる。
エドにわたし達の事情を話して、けれどアルのようには素直に受け入れてもらえなくて。ま、易々と受け入れてもらえるとは思ってないけど。アルが素直すぎただけ。
んっふふー。にしてもエドの反抗期って相変わらず。「一緒に戦ってくれるのか?」「テメェのためじゃねぇよ!」またウケる。
エドはピナコから伝言を預かって来たらしい。ママの遺言だって。
「『約束守れなくてごめん。先に逝く』って」
ママ…ううん、トリシャ。やっぱりトリシャはすごいね。「確かに伝えた、」つんけんした態度で振り返ったエドが目を見開いたのを見て苦笑してしまった。パパ、感情表現下手くそだもんね。トリシャ、すごいよ。こんなに簡単にパパに涙を流させるなんて。エドは初めて見るでしょ?
「んふふ。わたし、何十回も何百回もトリシャに好きって言ってやったもんね」
「ずるいな」
だってそれはリゼンブールに残ったわたしの特権だもん。でもね、悔しいけど、パパの「トリシャ…」という切なそうな一言には勝てそうにないの。秘密だけどね。