*小梅、仲違う*

ローグタウン。始まりと終りの町。かつて海賊王が生まれた地であり、海賊王が処刑された地。


「おれの財宝か?欲しけりゃくれてやる…探せ。この世のすべてをそこに置いてきた」


有名な海賊王の遺言。海賊王は散り際に新しい冒険の道を指し示して逝った。処刑されるというのに、豪快な笑顔で逝ったんだもの。まるで天国と地獄へすらにも冒険しに行くみたいだった。悲しむ前にドキドキしちゃった。バギーの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったけど。私はとにかく海賊王に心から惚れているのだとその時改めて痛感した。海賊王は私の中で真の海賊だわ。

だから私は守ることに決めたの。宝の高潔さや誇りを。下品な輩にあの至宝は渡さない。手を伸ばすことでさえ我慢できないのに。

それに今日は記念日。富、名声、力。それら全てを手に入れた男が処刑されて今日でちょうど二十二年。ふふ。花とか買った方がよかったかしら?いいえ、海賊王ならラムの瓶の方が嬉しがるかも。


東の海から偉大なる航路へと入る、リヴァース・マウンテンの一歩手前のこの町の規模はそこそこに大きい。大きな町なら情報がたくさん手に入ることでしょうね。そろそろお星様になったバギーと一味のことを探してあげないといけないだろうし。ふふ。

ああでもその前に口紅を買い足さなきゃ。この町にはきっとあのお店があるはずだわぁ。

私には紅色が良く似合う、って昔船長が私に言ってくれた。この番傘も口紅も、船長が私にプレゼントしてくれたもの。
船長が私のことを考えて、私のためだけに選んでくれた紅。他のメーカーのものを使ってもいまいち気に入ることはなかった。やっぱり私にはこの口紅じゃなきゃ。

うふふ。口紅も買い足せたし、この町は偉大なる航路一歩手前の町だから海賊もいっぱい。いるわいるわぁ。あちこちに。色んな意味で満足できそう。


そうだわ。折角この町に来たんだもの。処刑台を見てから行こうかしら?きっとこの町でバギーに会えるでしょうしね。

あの処刑台こそ海賊王が亡くなった場所にして、この時代の始まりの場所。感動ものね。…あら?あれって、もしかして麦わらのルフィくんじゃないかしら?バギーも?それに、あの美人さんは金棒のアルビダじゃないの…?

ふわり。建物の屋根から軽やかに処刑台の上に降り立つ。傘の抵抗力があるから私の体はゆっくりと降りていく。


「ナマエ姐さん!?」
「おうナマエ。今の今までどこ行ってやがった」


まあいい。そう言うバギーに私は何も言えない。また会ったルフィくんに対しても。なぜかしら。バギーに再会したらバラバラにしてやろうと思ったのに、今はそれ以上の何かが私の中で蠢く。一緒の船に乗ってる野郎くん達が騒ぐ姿もいつもなら微笑ましく眺めていられるのに、今は私の何かを増長させるものでしかない。

ゆっくり、紅を引いている私の唇が開く。


「バギー…浮気?私とのことは遊びだったの…?」
「なァにふざけたこと言ってんだ!!」


あらそう。ならいいのよ。ぱっと傘を開いてくるりと回した。口角が上がる。

でもルフィくんを殺そうとするのはいただけないわぁ。この枷じゃあルフィくんは逃げられないでしょうに。私が麦わら帽子のルフィくんを気に入ってると、バギーも知ってるはずでしょう?


「これより麦わらの処刑をハデに始める!」


わぁ!と処刑台の下の衆が騒いだ。ルフィくんのところの剣士くんやコックさんが阻止しに来たみたいだけど、間に合うのかしら?バギーが剣を振りかざした。あの二人は間に合うの?船長の危機よ。ほら急いで。私は…手を出した方がいいのかしら?うーん。高笑いするバギーの腕の一本ぐらい、斬ってもいいかしら?


「悪ィ。オレ、死んだ」


刃が、首に届く。その瞬間ルフィくんは笑った。


「船長…?」


バチリ。はっと意識を取り戻し、傘を閉じて急いで処刑台から飛び降りる。次の瞬間、雷が処刑台を撃った。危機一髪、みたいね。処刑台が音を立てて倒れ、それと同時に雨が降り始めた。生還を告げるルフィくんに辺りは唖然。ふふ。やっぱりルフィくん、海賊王に相応しい男みたい。

少し濡れてしまったわね。傘を打つ雨の音がファンファーレみたいに聞こえる。攻撃を仕掛けてくる海兵も演奏隊の一員ね。


「ナマエ!追え!テメェなら簡単に麦わらの居場所がわかるだろ!」
「嫌よ。バギー、どうしてルフィくんに意地悪するの?」
「バカかオメェは!!オレ達ャ海賊だぞ。プライドを傷つけられて黙っていられるわきゃねェ」
「だからって「ナマエ」


別の方法があるでしょ?と言う前に、バギーが私の言葉を遮った。目はギラギラと眼光を放ち、いつもの悪い笑みを浮かべている。


「お前はただオレ様の命令を聞いてりゃそれでいいんだよ。……殺れ」


こういうとこ、海賊って感じがするわ。卑怯で、姑息で、狡猾。船長とは本当に大違いな男。船長。私、これでバギーと喧嘩してしまったのは何回目かしら。


「…バギーなんて……大っ嫌いッ!!」


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