*小梅、出会う*

この町もバギーが好き勝手に大砲を撃ちかましたせいでボロボロになっちゃって、まぁ…。あーあー。それにもう、バギーったらまたどこかの誰かさんと喧嘩してるみたいで広場がズタズタ。後でお仕置きと称してバラバラに刻んじゃおうかしら?ただでさえ今日は何発も大砲を撃ったって言うのに。

広場での戦闘は、ちょっぴり苦戦してるみたい。珍しいわね。このあたりでバギー一味に喧嘩を売る海賊なんて限られてるもの。相手は…あら?一人?バギーと戦っているのは麦わら帽子の少年。腕が伸びたり縮んだりしてるから、あの子もバギーと同じで能力者なんでしょうねぇ。


「な、なんて戦いなの…夢でも見てるみたい…!」
「ほぉんと、その通り」
「……ん?」


くるり。オレンジ色の髪の少女が振り返ったのと同時に私も傘を回す。「ヒッ…!」と声を上げたから、悲鳴を出させないために少女の口を手で押さえ、反対側の手の人差し指を口元に持って行き、しーっと息を吐いた。少女はコクコクと頷く。素直でよろしいわ。紅を引いた私の唇が持ち上がった。

少女の手にある袋からはうちのお宝らしきものが見えるけど…まあいいわよね。半分くらいは私が稼いだようなものだもの。二人の戦いに視線を戻すとしましょう。


バラバラ砲!バギーが叫ぶと右腕が少年に向かって飛び出した。その手に握られたナイフが麦わら帽子を掠める。つばに切れ端が入ってしまったのを見届けると、少年が「この野郎!」と叫んだ。
「これはオレの宝だ!」あらあら。少年にとっては大事な帽子みたいだってのに、バギーは悪役さながらに笑って帽子を串刺しにした。外道ね。あとで指切断の刑だわ。


「それはシャンクスとの誓いの帽子だ!!」
「!」
「何ィ!?」


なんであの麦わらの少年から、かつての同胞の名前が出てきたのかしら。首を捻って考える。でも言われてみると見覚えのある帽子だとわかる。シャンクスの帽子、もう十年も見てないから忘れかけているみたいね。バギーは彼のことがうんと嫌いだから、気にかける前に忌々しそうに帽子を投げ捨てた。


「通りで見覚えがあるわけだ。アイツ、いつもオレの隣でコレを…!」
「え?オマエ、シャンクスと同じ船に乗ってたのか?」
「ああ。海賊見習い時代にな。まあ同志ってところだ」


クソ忌々しい赤髪が!バギーは吐き捨てるように言うと、麦わら帽子を踏み付けた。「シャンクスは偉大な男だ!オマエと同志だと!?一緒にすんなァ!!」少年はもう我慢がならなかったのか、バギーに飛び掛かった。鳩尾に蹴りがクリーンヒットする。フェイントが効いたのね。バラバラ緊急脱出も無意味なんて、笑えて仕方がないわ。蹴り飛ばされて地面に倒れたバギーに少年は跨り、頬を引っ張ってさらに危害を加える。


「いででで!」
「オマエとシャンクスが同志だなんて、二度と言うんじゃねェ!!」
「全く同感だわぁ」
「ぐほぁあっ!!」


ドゴッ。さっき蹴りを受けたばかりの鳩尾に私の全体重が圧し掛かる。お花畑が…と足元で何か呻いているわね。


「バギーみたいなクズで外道でカスな男と、シャンクスみたいな冒険バカで呑んだくれが一緒なわけないじゃない」
「そーだそーだ!」
「オ、オレがシャンクスをどう言おうが…って、なんでオメェが船長を踏み付けとんじゃあ!!」


「うるさいわよ、バギー」一蹴して番傘の先を眉間にぐりぐりと押し当てる。


「麦わら帽子の君、うちのバカギーがごめんなさいねぇ?名前は?」
「オレはルフィだ」
「…ああ、君があの……。シャンクスから何度か君のこと聞いたことあるわ。私はナマエ。私も昔シャンクスとバカギーと一緒の船に乗っていたのよ」
「え!?シャンクスとオマエが!?本当か!?」
「ナマエ!バカギーって何だバカギーって!!てかまだアイツと会ってたのかァ!?」


ちょっと本当にうるさいわ、と威嚇射撃をする。バギーが縮こまったところで、もう一度麦わらのルフィくんに視線を戻す。まだその顔にはあどけなさが残っている。一見海賊には向いていなさそうだけど、随分真っ直ぐな目をしている。うふふ。ちょっぴり船長に似ているわぁ。


「まあバギー。昔話ぐらいしてあげたらどう?シャンクスに命を救われたやつでしょ?」
「違ェだろ!?あンの野郎がオレに悪魔の実を食わせ、計画を狂わされた話だろォ!?!?」
「へー!シャンクスが助けてくれたのか」
「だから違ェって!!」


とにかくだ。お宝好きなバギーは計画に十年の遅れを取られたことを恨んでいるってわけ。バカよね、本当。結局吹っ切れたバギーは別の方法であらゆる財宝を手に入れようとしてるの。


「だから、おれの財宝に手をかける奴はどんな虫ケラだろうと、絶対に生かしちゃおかーん!!」
「あ?」
「あら?」
「し、しまったぁ!!」


バギーの上半身。通り抜けていった先を見ると、さっきのオレンジの少女がいた。あら、どうしよう、と思って傘をくるりと回すとバギーが急停止した。なんでかしら?「オマエの相手はまだオレだ」ルフィくんの動作と、バギーの呻きから察するに股間を蹴られたらしい。あーあ。痛そう。


「ナミ、その宝置いてどっか行ってろ。また追いかけられるぞ」
「嫌。宝を置いて行けですってぇ?絶対嫌。なんで私の宝を置いて行かなきゃいけないのォ?」
「…テ、テメェの宝だとォ!?」
「当ったり前でしょォ!?海賊専門泥棒の私が、今海賊から宝を盗んだんだから、この宝は私のものだって言ってんの!」
「あー、なるほど」
「それもそうよねぇ」
「たわけェ!!」


「どんな教育を受けてんだ」ってバギーは言うけれど、悪党に悪事について説教される筋合いはないっていうオレンジの少女、ナミちゃんの言うことにも一理あると思うの。これを言うと、またバギーにどっちの味方だって言われそう。

バラバラフェスティバルで無造作に散らばった体が、ナミちゃんに襲い掛かる。女性を襲うなんて本当に卑劣ね。バギーって悪党って言葉が似合いすぎる男だと思うの。「まだ終わっちゃいねぇ…ゴムゴムゥ…」麦わら帽子のルフィくんに蹴り飛ばされたってのに、まだやるみたい。


「集まれェ!バラバラパーツ!!」


じゃーん、とパーツが集まる。そして沈黙。「…あれ?」というバギーの呟きが響いた。バギーの今の体、私の膝丈ぐらい。明らかにパーツ不足。
「探してるのはこれ?」ナミちゃんの方向を見ると縄で縛られたパーツが転がっていた。


「げえっ!オレのパーツ!!」
「やーだーバギー!すごく間抜けねぇ!!」
「はっはっはっは!!さすが泥棒っ!」


ルフィくんのゴムゴムのバズーカでバギーは空へ飛んで行った。本当に最高!バギーがお星様になっちゃった!お腹が痛くて仕方がないわぁ!

ふふふ、と笑いながら目元の涙を拭い、ボロボロになってしまった麦わら帽子を拾い上げた。気休めに帽子の土埃を払う。


「ごめんなさいね?うちのバカなバギーが」
「お、サンキュー」
「それよりいいの?あなたの船長、飛ばされたけど」
「いいのよ。最近調子に乗ってたし。いい灸を据えられたわぁ」


それに面白かったしね。うふふふ!明日は腹筋が筋肉痛になってしまうかも。


「麦わら帽子のルフィくん。君も海賊?」
「ああ!オレはワンピースを手に入れて、海賊王になりてェんだ!」


そう。ルフィくんの堂々とした宣言ににこやかに返事をする。ルフィくんってほんとに海賊っぽくないのねぇ。船長を思い出すわぁ。


「ふふふ。なんだか君になら、あの大秘宝が手に渡ってもいいとか思えそう」
「当たり前だ。オレは海賊王になるんだからな!」
「私、応援しちゃう。ふふ。また会いたいわぁ」
「おう!またな!」
「それじゃあ」


くるくるーり。別れに手を振る代わりに傘を回してそこから去った。ふふ。バギーが帰って来るまで何をしようかしら?未来の海賊王候補に出会えて、今日はとってもいい気分だわ。

ねえ、船長。海賊王に相応しいのって、船長や麦わら帽子くんみたいな人だと私は思うわ。うふふ。


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