*小梅、憬れる*
シャボンディ諸島は聖地マリージョアのすぐ近く。だから世界貴族もよくこの町を出歩いているし……奴隷の売り買いもされている。船長も私も、とても好まないことだわ。
私、海賊だけど思っちゃうわ。世界貴族って下手すると海賊よりタチが悪いんじゃないかしら、って。偉いことをしたのも先祖よ。彼らはただの子孫。それなのに大きな顔をされるなんて、いい気はしないわね。同業者も何人かいるみたいだし、海賊の血が騒ぐわぁ。 この店にいるヤツ、私全員嫌ァい。ふ、と気付いたら番傘を握り締めていた。…この会場を真っ赤に染め上げても許されるわよね?船長ならきっと許してくれるわ。
あの人魚ちゃんも可哀想ね。こんなクズに売られるなんて。でも私の待ち人も到着したみたい。轟音と共にオークション会場の屋根に穴が開いた。
「ケイミー!探したぞー!よかったァ!」
ふふ。…うふふふ!待ってたわ。私の期待の新人。やっぱり君はやってくれるのね。あの天竜人を殴り飛ばす、だなんて。ほんとに君は見ていて飽きないわ。
傍から見れば彼らは世界の反逆者。けれど私は彼らを称賛するわぁ。贔屓目が入ってるせいもあるかも。ふふ。天竜人の悔しそうな顔、最高だわ。もっと見せて欲しいくらい。うふふ。笑いが止まらないわ。
でも残念ね。私はともかく、ルフィくん達はここから逃げられるのかしら?オークションが始まる前からこの会場は海軍に囲まれている。大丈夫かしら? 天竜人はせめての仕返しにと水槽の中の人魚ちゃんに銃を向ける。ああ、卑怯ね。海賊も顔負けだわ。
「さァ、魚!死ぬアマス!」
ああ引き金が引かれるわ。その瞬間、ピリと肌を刺す衝撃。銃を向けていた天竜人はあおむけに倒れた。緩やかに私の口角は上がる。
「ホラ見ろ、巨人くん。会場はえらい騒ぎだ。オークションは終わりだな」
舞台裏から天竜人を倒した張本人の登場。その人と一緒に巨人。ここにいる人達皆唖然としているのね。ふふ。それもそうだわ。だってあの人なんですもの。注目を浴びすぎるくらいが丁度いいわぁ。
「その麦わら帽子は、精悍な男によく似合う。会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ」
会場の状態を見回してふむ、と呟いた彼。察するまで早い。その後もう一度来た衝撃波。バタバタと倒れて行った残りの衛兵。ルフィくん達はあんなに数に手こずってたと言うのに。ああダメ…!何度感じても副船長の覇気は素晴らしい!ゾクゾクしちゃう!
レイリー副船長は刹那に人魚ちゃんの爆弾付の首輪を外してみせた。お見事。やっぱり凄いわぁ。「…『冥王』シルバーズ・レイリー…!」ルーキーの一人、キッドくんの言葉は大正解。あの人は伝説の男。
「レイリー副船長…流石。格好いいです…!」
女は強い男が好き。船長も副船長も、桁違いに強い。ああ、だから好感が右肩上がりなのよ。
しん、とした会場に私の独り言はよく響いた。「ナマエ〜!?」「待っていたわぁ。ルフィくん」本当、大物になっちゃって。纏う雰囲気も前会った頃と大違いじゃない。ふふ。ナミちゃんの驚いた顔、これで何度目かしら?
「ナマエ!ダメじゃないか、女性がこんな危険なところに来ては」 「だってもう一度副船長に会いたかったんですもの」
だからいいでしょ?と紅い唇を弧にすると副船長は仕方ないな、って苦笑した。その仕草も何もかもに憧れる。
「あら。彼女、『紅傘のナマエ』じゃない」 「ロビン、ナマエのこと知ってるの?」 「ええ。有名人じゃない」
あら。オハラの生き残りさんが私のことを知っているなんて。私の手配書の写真は傘で隠れて顔が載っていないも同然だし、古いから出回っている数も少ないのに。とても物知りさんなのね。 うふふ。ルーキーの船長さん達も聞き覚えがあるのか首を傾げていた。見ていて面白いわね。
レイリー副船長は海軍の前で目立つわけにはいかないので、もう覇気は使わないと仰った。代わりに船長ズは表の海軍の掃除に出て行く。喧嘩しながら行ったけど、大丈夫なのかしらねぇ?
「おい、大乱闘になるぞ!そのスキに脱出しよう」 「そうだな。ナマエ、案内を頼んでもいいか?」 「レイリー副船長からの頼み事なら喜んで」
表に出るとそこは大乱闘。ダメね。血が騒ぐ。私だって暴れたい。切り刻みたい。ワクワクしちゃうけど、レイリー副船長から頼み事をされてる以上今はこの傘を振り回せないわね。
ルフィくんのお友達の迎えにお邪魔し、レイリー副船長が現在居住してるパブに到着。無法地帯に属する13番グローブのここなら海軍も簡単には見つけられないでしょうね。
「ええェ!?海賊王の船にィ!?」 「ああ。副船長をやっていた。シルバーズ・レイリーだ。よろしくな」 「副船長〜〜!?」 「あら、気付いてなかったの?」 「その名前メチャメチャ知ってる〜〜!」 「いろんな本に載ってる〜〜!」
あら。ルフィくん達は副船長のこと知らなかったのね?これは面白いわぁ。 誰でも知っている海賊王の船の副船長の名前。今こんな島でコーティング屋をしているだなんて知らなかったのね。
「…てことはこの人のことを副船長って呼んでるナマエは……」 「海賊王の船の元船員……」 「そういうことになるわね」 「有名な話じゃない」 「ギャーーー!!」
ふふ。ロビンちゃんとは気が合いそうだわぁ。
それから副船長の口からかつての旅の話を始めた。偉大なる航路を制覇した頃の話。懐かしいわ。海賊王と呼ばれ始めた頃の船長、とても嬉しそうだった。
海賊団の解散命令を出されたことにより仲間が一人、また一人と減っていった。バギーもシャンクスもその一人。私は船長が亡くなるその瞬間まで船長の船員だったわ。処刑される瞬間、船長は新しい時代の幕開けを告げ、その日私は泣き笑いした。船長の意志が消えない限り私の中の船長は消えない。
うふふ。レイリー副船長から色々教えてもらえて、ルフィくん達にはいい刺激になったんじゃないかしら?これからルフィくんは仲間と一緒にさらに厳しい冒険を送るのでしょうね。
「それじゃあね、ルフィくん。頑張ってちょうだい」 「おォ!またな〜!」
町には大将が来たらしいし、気を付けて欲しいわ。私はもうちょっと飲んで行こうかしら?
「シャッキーさん。今日の新聞を頂けないかしら?」 「はい、どうぞ。おかわりはいかが?」 「お願いしたいわ」
グラスの中の氷がカランと音を鳴らした。ルフィくん以上の私のお眼鏡にかなう海賊はいるのかしら?まあいそうにないけれどね。うふふ。 ああ、そういえば。今日の人間屋での騒動は記事になっているのかしら?天邪鬼に逆から読んでいたから新聞をひっくり返さなきゃ。大事件は一番最初のページに載せられるものだもの。
ひっくり返し、見出しを目に入れて、唖然。…海軍、なんてことをするつもりなの。
船長。大変、事件よ。船長の息子が、公開処刑される。
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