*小梅、賭ける*
「バギー!シャンクス!会いたかったわぁ!」 「ナマエー!?」 「ナマエ!オマエまで乗り込んでくるたぁなァ!」 「中継を見てたらバギーが映ってたんだもの。慌てて飛び出して来ちゃった」
小舟を一生懸命漕いで海軍本部まで来ちゃった。波を乗り越え、海王類を撃破して。ちょっと危険だったかもしれない。でも仕方ないわ。だって会いたかったんだもの!理由なんてものはそれだけで十分でしょ?
麦わらのルフィくんはもう行ってしまったみたいね。残念。彼にも一目会いたかったわ。でも彼には悪いけれど今はバギー!だってだってやっと再会できたのよ。当然じゃない!
「バギー!やっぱりあなたは最高の男よ!バギーほど私を満足させてくれる人はいないわ!」 「おいおいナマエ。となるとオレじゃオマエを満足させられねェのか?」 「あら。シャンクスはダメよ。だって斬ったら死んじゃうじゃない」
一回きりで使い捨て、だなんてあまりにもつまらないわ。
「テメェはオレ様のことを何だと思ってやがるんだ!?」 「いやね。私のストレス発散のための玩具でしょ?」 「てンめぇえええええ!!!!」
うふふ。やっと私の紅い口紅がよく映える顔になれた気がするわ。今とても気分がいい。生き返った気分って、こういうことを言うのね!
「な、なんだあの女は…」 「……ヤツぁ…」 「キャプテンバギーと四皇シャンクスにあの態度。ただ者じゃないに違いねェ!」
私が何者?そんな話今はどうだっていいじゃない。そんなことより大事なことが今の私にはあるの。
ああ、バギーをバラバラにするこの感触…!体の奥底から何か込み上げてくるような感じ。やっぱりバギーを斬るのと他の弱者を斬るのとでは全然違うわね。
「貴様は……『紅傘のナマエ』!」 「あら。ごきげんよう、センゴクさん」
ふふ。こうして挨拶するのはいつぶりかしら。ガープさんも。船長の船に乗っていた頃はしょっちゅう顔を合わせていたのにね。
「うふふ。上手く隠して海賊潰しを続けてたんだもの。私の懸賞金の更新はされていないでしょう?」 「……その通りだ。貴様の手配書も随分と古いうえ、出回っている数も少ない。今この場に貴様を知っているやつも少なかろう」
でしょうね。見つけたら回収してきたもの。私の手配書なんて相当のレア物だわぁ。そんなに怖い顔しないで欲しいわ、センゴクさん。
「だがなぜ今になって政府の前に顔を出した。貴様は小物ばかりを標的にしていただろう」 「私の船長とお友達がお邪魔したみたいだから。拾いに来ただけだわぁ」
バギー、監獄でたくさんの部下を手に入れたみたいね。あら、でも柄が悪い。もしかしなくてもバギーより懸賞金が高いじゃないの。
「元・ロジャー海賊団船員『紅傘のナマエ』……懸賞金6億7000万ベリー」 「懐かしい顔だね〜」 「6、億…!」
何度聞いても大きな額よねぇ。船長の船に乗っていたことと弱い犬を何百匹か潰してきただけなのに。よくそれが問題だ、なんて言われたけれどやっぱり納得できないわ。ミホークの方がタチが悪いじゃない。七武海だから、なんて言葉は受け付けないわ。
「ロジャー海賊団の赤いトリオ…こうして集まるのは何年ぶりだろうなぁ」 「そうねぇ…」
シャンクスの台詞にしみじみと思い更ける。レイリー副船長に私達三人のことを赤いトリオと言われて何年かしら。赤色は私達の象徴の色ね。
「赤髪のシャンクスに、紅傘の私。そして…赤っ鼻のバギー」 「だァれが赤っ鼻じゃこのすっとこどっこい!!」
さあ。シャンクスが止めに来たのだから戦争はこれでお終いよ。これ以上戦っても何の利益もないもの。不利益が上回るだけ。ふふ。ダメって言われたらここを私の好きな真っ赤の色に染め上げてあげるだけだけど。
「悲しいわね…」 「ナマエ…?」 「以前エースくんとお話ししたことがあるの。とてもいい子だったわ」
いい子だったし、可愛い子だった。船長の息子だもの。当然よね。 なのに、海賊王の息子という理由で公開処刑だなんて。…いいえ。海賊だから、という理由ももちろんあるわ。それに彼も海賊になったのだから、これぐらいの覚悟はしていたでしょうね。
けれどやっぱり知り合いが亡くなると悲しいのね。船長の時とは違う。けど私以上にルフィくんや白ひげの一味の方が悲しんでるわよね。
「そんなに気に入ってたなら最初から戦争に介入してりゃちったぁ変わってただろ。ナマエの好きなロジャー船長の息子だぜ?」 「エースくんが白ひげを父と決めたのに、それを否定するなんて無粋でしょう?…シャンクス、二人の埋葬、私も手伝っていいかしら?」 「ああ…もちろんだ」
彼、笑ってるじゃない。こういうところを見ると、やっぱり親子なのねって思っちゃう。白ひげもやっぱりいい男。好敵手の息子をこんなに愛するなんて。墓前で最後の盃を交わしたいものね。
悲しいわ。けれど同時に嬉しくもある。また新しい時代が始まるのね。
「シャンクス。あなたには悪いけれど、私はルフィくんに賭けるわ。彼はいずれ海賊王になる」 「テメッ!?船長のオレを差し置いて麦わらに肩入れしやがって!」 「だっはっは!……そうか。オマエが」 「新たな時代の幕開けねぇ」
ふふ。楽しみ。新しい時代が始まる瞬間はいつ見ても心躍るわ。
船長。船長もきっと、こんな気分で冒険を続けてきたのね。うふふ。これだから海賊は止められないのよ。ねえ、船長。
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