沈黙は金、雄弁は銀(1/3)


「初めまして。イタリアから短期留学に来ました、稲葉アルです。年齢は皆さんの一つ上で、短い間となりますが、どうぞよろしくお願いします」


場所は並盛中学、2-A。教壇の前で一つ、深々とお辞儀をする。顔を上げれば私に集中する好奇心で溢れた視線。
彼らは普通の子供だ。無邪気なあどけなさが伝わってくる。私は彼らと年齢が一つしか変わらないと言うのに、なぜか彼らがとても幼く見えてしまう。


「稲葉の席は……そうだなぁ。お!沢田の隣が空いている。おい沢田!」
「あ、は、はい!」


担任の指名に慌てて立ち上がった少年。彼の顔は何度も写真を見たから、よく記憶している。オドオドした態度を取る彼が…相手側にわからないように目を細めた。


「オレ、沢田綱吉って言うんだ。よろしく。日本語上手だね」
「ありがとうございます。イタリア、日本を含めて多くの国を回っていましたから。その経験の賜物かと」
「(ま、またイタリア――!?マフィア関連とかじゃないといいけど…)え、えっと、その…す、すごい経験だね!」


また「ありがとうございます」と礼を述べた。無理矢理述べたお世辞ということはわかっている。


沢田綱吉。ボンゴレ門外顧問の沢田家光の一人息子であり、ボンゴレ次期10代目候補。第一印象は……甘っちょろいガキ。少しは警戒心を抱いたらどうなのだろうか?例えば…例えばそう。彼の机を挟んだ向こう側の銀髪の彼のように。

獄寺隼人。『ハリケーン・ボム』の通り名を持つ男。沢田綱吉と話している私に対して不満があるのか、先程からガンを飛ばされ続けている。


朝のホームルームが終了し、一時間目が始まるまでの間の小休憩を挟む。途端、その獄寺隼人がずかずかと私の方へ歩み寄ってきて机を叩いた。被害に遭っている私ではなく、沢田くんが悲鳴を上げた。


「おいコラテメェ!どこのファミリーのもんだ!?」
「ご、獄寺くん!ごめんね、稲葉さん。獄寺くんに悪気はなくて…!」
「ははっ、獄寺ってばまだマフィアごっこしてんだな。あ、俺山本武っつーんだ。よろしくな」
「沢田くんに獄寺くん、山本くんですね。どうぞよろしくお願いします」
「テメェ!軽々しく10代目の名前を呼んでんじゃねぇ!」


また沢田くんが「獄寺くん!」と戒めた。彼らの仲の良さから見て、この二人は沢田くんのファミリーなのだろう。彼らも監視対象に含めるとしよう。

時間というものは案外早く過ぎるもので。授業開始のチャイムが鳴った。獄寺くんはまた私を一睨みし、渋々着席した。

さあ、授業の準備をしようかと鞄を覗いて「あ」と声を漏らしてしまった。こんなミスをするなんてらしくないな。ポリポリと頬を掻くと、隣の沢田くんが「どうかした?」と尋ねてきた。


「私ってば、授業の前に教科書のコピーを貰うのを忘れてたみたいで……」
「あ、それじゃあオレのを見せてあげるよ」
「…すみません。ありがとうございます」


借りと言うのは価値がわかりやすく示されないから作るのはあまり好きではないのだけれど。この場合は仕方ない。監視対象に近付けたのだから良しとしようと納得させて、沢田くんの方に机を寄せた。


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