▼沈黙は金、雄弁は銀(2/3)
今日一日沢田くん達を観察してわかったこと。 沢田くん、彼は『ダメツナ』と呼ばれている。勉強、運動全て平凡以下。さらには逃げ腰なその性格から屈辱的なニックネームをつけられてしまっていることに納得するしかない。彼がボンゴレ次期10代目候補だということに疑問を抱かずにはいられない。
そんな彼に対して、獄寺くんは成績優秀。山本くんは運動神経が良い。ボス候補より部下の方が出来た人間であることはどうなのかと思う。ヴァリアーは全く正反対で、ボスの力は組織内で最強であった。 私の世間が狭すぎるのかもしれない。世界を探せばこういうタイプの組織も存在するのだろう。
とにかく今日の授業はもう終わりだ。帰宅してさらに情報を集めるとしよう。
「あ、稲葉さん!」 「…何か用ですか?沢田くん」 「えっと…並盛は初めて、だよね?良かったら案内しようかなー、なんて…あは、あははは」
思わぬ誘いに私は少し目を瞠ってしまった。 案内。確かにまだ並盛全てを把握しているわけではないし、対象からの誘い。有難い事尽くめなのだが。
「10代目!なんだってこんなやつに!」 「ははっ、そりゃいーのな。俺もついて行っていいか?」 「あ、二人も一緒でいいかな、稲葉さん?」
喜んで、なんて返事をするわけにはいかないから「はい」と短く返しておいた。
今回の私の任務は見張り。まとめて見張っていられるなら楽に事が運ぶ。 どこから案内しようか、と話しながら私達は校門を出た。
「稲葉さんって色んな国を回ってたんだよね?」 「そーなのか?」 「はい。イタリアから始まりドイツ、アメリカ、中国、ロシア、アフリカ、ブラジル…もっとたくさんの国を見て回りました」 「ケッ、自慢かよ」
確かに自慢かもしれない、と心の中で勝手に思った。私の取り柄など豊富な経験ぐらいしかないだろうから。
「てことはその国の言葉とか話せたりすんのか?」 「今挙げた国の言語なら、多少」 「す、すっげー!」
今まで褒められることなんてなかったから、少しこそばゆかった。
「オレなんて自分の国の言葉も危ういからさ。ははは」 「そ、そんなことありません!10代目!」 「沢田くんはまだ中学生なんですし…塾に通ったり家庭教師をつければいいんじゃありませんか?」 「あ、えっと、その…」 「何言ってやがんだテメェ。10代目には既に優秀な家庭教師がいらっしゃるんだよ」
まだ身辺調査を完璧に済ませたわけではない。新情報にピクリと手が反応してしまった。次期ボンゴレボスの教育は既に始まっていた。そういうことなのか。でも一体誰が……。
「ちゃおッス」
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