海老で鯛を釣る(2/2)


「稲葉アルです。失礼します」扉の前でノックをし、そう言って部屋にお邪魔した。ザンザス様は部屋を入って真正面の椅子にいつもと言っていい程ふんぞり返っている。

ご用は何でしょうか、と尋ねると、ある一つの茶封筒を放り渡された。これは受け取れと言うことか。


「テメェに任務だ」
「私はメイドである、と初めての挨拶の時に申し上げたと思いますが」
「るせえ。金は相応に支払う」


金。その言葉を出されては私は口ごもってしまう。前回の任務は『掃除』だったから引き受けたものの、それ以外のこととなると渋りたくなる。私はメイドなのだから業務外のことは極力控えるべきだと思うのだが、金を見逃したくもない。

にしても私にまた任務など。他のヴァリアー隊員の方に回したりしないのだろうか。もしや私も一員として組み込まれたのでは…。
ザンザス様は疑問の波に呑まれた私が何も言わない間にさらに言葉を継ぎ足した。


「日本に飛べ」
「日本、ですか?」


それだけのワードで任務内容を全て把握出来る程、私は察しの良い人間ではない。仕方ないか、と諦めつつ茶封筒の中身を取り出し、軽く目を通した。

目に付くのは一人の少年の写真。頼りなさげな雰囲気を持つ、私とさほど年齢が違わなさそうな彼。


「そいつとその仲間のカス共を見張れ」
「何のためか、もこちらで勝手に調べますがよろしいですか?」
「好きにしろ。報酬分の仕事はきっちりしやがれ」


封筒の中に資料を戻し、僅かに口角を上げた。
やっとこの人のことがわかってきたと思っていたのに、彼の方が一枚上手だったようだ。私の扱い方をよく心得ている。それとも初対面の時に私が掌の上で転がしたことを根に持っているのだろうか。…まあどちらでもいいことだ。


「了解しました。これからすぐに日本に飛び立ちます」


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