海老で鯛を釣る(1/2)


「少しの間とは言え、この広い屋敷を一人に任せてしまってすまないね」
「いえ。私に出来たことなど少なく、申し訳ない気持ちしかありません」
「これだけやってくれれば十分だ」


今会話をしているのはこの屋敷に来た時に会ったあの執事。なんでも彼は執事長なのだと。人は見かけによらないらしい。

今日やっと病院送りになっていた使用人の半数程が帰って来た。やっと同僚と初の対面を迎えられた。これで私の仕事がいくらか楽になるのだろう。けれど少々の不安もある。


「使用人の皆様が帰られたということは、私は解雇されるのでしょうか…」
「そんなまさか!君みたいな仕事の出来る人を手放すなんて勿体無い真似、出来るわけないさ」


良かった。私の一抹の不安はすぐに解消された。この職は、謂わば海老で鯛を釣ったようにして手にしたもの。そう簡単に手放したくなかった。


「ああ、そういえばザンザス様がアルのことを呼んでいらした。すぐに自室に向かうといい」
「ザンザス様が、でありますか?」
「そう。おっと、解雇通知ってわけではないから安心してくれ」


早く行かないとあのザンザス様のことだ。どうなるかわからないから早く行きなさい、と執事長に促された。

傍若無人の主人が私に一体何の用なのか。ちょっとした不安を抱えながらザンザス様の自室に向かった。


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