一諾千金(1/3)


ヴァリアー邸は広い。決して私一人ではこの屋敷全てを掃除し切ることは出来ない。当面は幹部の皆様の部屋、またその方々が日頃使用される場所を清潔に出来ていればいい。

けれどヴァリアー邸の部屋一つ一つは広い。日替わりで掃除場所を変えている。
今日の掃除場所はザンザス様の自室。そしてすぐ傍にはこの部屋の持ち主、ザンザス様本人がいらっしゃる。私としては迷惑をかけやしないか不安で仕方ないのだが、ザンザス様は自由奔放にワイングラスを傾けている。それを見習い、私も感情を表情に出さないように努める。


「ザンザス様。大変失礼なことを申し上げますが、貴方様は過去にクーデターを起こした身であるとか…。名誉挽回のため、何か行動を起こされているのでしょうか?」


ふとした疑問を口にしてみた。私が沈黙に耐え切れなかったのだ。それにザンザス様と言葉を交わした回数は幹部の方々に比べて非常に少ない。彼の人柄を知りたいという気持ちも少なからずあった。

私の問いを聞いたザンザス様は「カハッ!」と噴き出した。今のは愚問だったか。ザンザス様は既に行動を起こしていたようだ。私もまだまだらしい。


「今夜屋敷を開ける」
「それはつまり私以外の皆様、幹部の方々を含めて総動員で任務に行かれるということでよろしいでしょうか?」


ザンザス様から否定のお言葉が出ないということは私の意見通りということだろう。沈黙は是。ザンザス様は寡黙なお方だ。必要以外のことはその気にならない限り発さない。


「屋敷に忍び込むようなカスはかっ消せ」
「業務外です。別途賃金を頂きたいのですが」
「好きにしろ」


少しは渋られると思ったのに、すんなり色好い返事が聞けた。むせかえるような戦場にまた戻ることとなろうとは。金を受け取ることが出来るなら、いくらもう止めてしまった生業とは言え、また再び腕を揮うことも厭わない。

掃除の手を止めて、黒光りする金属の重さを思い出した。くっ、と手に力がこもったのが伝わってくる。


「了解しました。喜んでお引き受けします」


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