▼一諾千金(2/3)
日が暮れた後、屋敷から私以外の人はいなくなった。今晩の私の特別な仕事は、ヴァリアーの皆様が帰られるまでこの屋敷に何人たりとも侵入を許さないこと。
月は私の真上にある。殺気が屋敷の周りを囲む森から大量に溢れている。今日の掃除は色々と厄介だ。場所やら範囲やら。
ふわり。屋敷の屋根の上から正面玄関に飛び降りた。衝撃はさほどない。まだこれぐらいは動けるようだ。
暗い闇からぞろぞろと、この暗闇に紛れるような黒スーツを着た男が何人も現れた。数にして20程。あちらはメイドがこんなところに立っているのを不思議に思ったのか、眉を寄せたのが何人かいた。
「ようこそ、ヴァリアー邸へ。ですが申し訳ありません。今夜はどんなお客人であろうと屋敷へとお招きするなと言い渡されております。後日、いらしてくださいませ」 「ンだぁ?この女?オレらが誰だかわかって言ってんのか?」
ピストルを懐から取り出した男が酷く不愉快そうに言った。「まあよせ」隣に立っていた男が制する。その制した男がどこかのファミリーを名乗ったので、念のため記憶しておく。ニタニタと下品に笑い、私の顔を覗き込んだ。私は無表情を貫き通す。
侵入者は全て抹殺。それが私の仕事。
「お嬢ちゃん、怪我したくなきゃ大人し〜く通しな」
――パン。軽い発砲音が響いた。発生源は私の掌に収まっているリボルバー。銃口から煙が立っている。私の前で嫌らしい態度を取った男は膝から崩れ落ちた。男は既に息をしていない。
一諾千金。金を受け取ったならば私はその仕事を完遂させる。それ相応の金額を提示されなければ依頼は請け負わない。 金額は私への信頼の証。信頼されないのであれば私は応えない。されたのならば応えるのは当然の行為。応えられない依頼は受けない。依頼を受ければ全力を尽くす。これが私のポリシーのうちの一つ。
呆気に取られていた男達もやっと不穏を感じられたのか、次々と武器を手にしだした。
「お引き取りくださらないのであれば、僭越ながら、この私がお相手いたします」
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