銭ある時は鬼をも使う(1/4)


トレーニングを積み重ねて数日。日本に飛ぶのは駄目だと却下されて以来、特にすることがないので修業に明け暮れる毎日だ。思った以上に修業は疲れる。おまけに中々自分のスタイルを見出せずにいる。これまでとは全く違う戦闘スタイルである故に、私の自慢の適応力が上手い具合に発揮出来ずにあるからだ。
寝ている間も精神世界でトレーニング。なんて私は真面目なんだろう。ただ死にたくないから鍛練を積むだけだが。


「アル。聞こえますか、アル?」


私の精神世界に唐突に響く声。イメージトレーニングは一旦中止。この声は確か。「骸くんですか?」「その通りです」まあ人の精神世界に干渉したがる変人なんて、彼以外に思い当たりませんけどね。


「いつもは鬱陶しいくらい絡んできたがるのに、今日は声だけなんですね」
「鬱陶し!?…ごほん。僕は今、力を温存する必要がありますから」


何のために必要か、なんて野暮なことは聞かない。この骸くんは未来の骸くんか。復讐者の牢獄にいるのだ。そんな状況でタイムトリップなんて出来ないだろうしね。


「それで。今回のご用件は?」
「君に頼みがありましてね。日本にいるクロームを助けてあげて欲しい」


「クロームさん?」ああ、骸くんが憑依する時に使っていたあの少女のことか。おどおどする彼女の愛らしい顔を思い出した。
けど犬くんや千種くんならいざ知れず、なぜ何の接点もないあの子を私が助けてあげなければいけないのか。骸くんのお願いと言えど、頷き難いところがある。


「なんでまた私が…」
「報酬は既に用意しているのですがね」
「では依頼内容を聞きましょうか」


ころりと態度を変えて、にこやかな営業スマイルを貼り付ける。丁度日本に用事があったし、稼ぐだけ稼いでおこう。「……君って人は」呆れ返った溜め息がどこかから聞こえてきた。


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