銭ある時は鬼をも使う(2/4)


その状況に気付いたのは、ベルの「飯はまだかよ」という呟きからだった。

アルは働き者だ。ボスに随分と気に入られていることからアルをことごとく嫌っているレヴィですら、アルの仕事ぶりだけは認めている。

過去に使用人の募集をかけた際、その枠に応募をしてきたのがベルと歳が然程変わらないアルだった。元ヒットマンだと聞いた時は驚いたが、本人のポリシーやらプライドやらで彼女が責務を怠ったことはないため心配は無用だ。ヒットマンはクセが強くて扱いに多々苦労するのにな。助かることばかりだ。……時々ザンザスに楯突きこちらがヒヤヒヤすることはあるが。

ヴァリアーの幹部は6人。それぞれが部隊長を担っているが、雲の席だけは部隊がない。雲の幹部であるアルだけは幹部と使用人筆頭を兼任しているからだ。10年前のアルはそのことに気付いてねぇみたいだがな。
元より受け持っている仕事の多いアルには部隊を持つ余裕はない。というかあのクソボスの面倒を見るだけで十分だ。アイツがいないとどうなるか……考えただけで背筋が震える。


ともかく、少々生活のリズムが崩れたぐらいでヴァリアーの仕事に支障が出ることはない。出るのはオレ達の腹の虫ぐらいだ。あのクソ真面目なヤツが珍しい、と思いながらアルの私室の扉を叩く。


「う゛ぉ゛おい!アル、いんのか。今日の飯はどうしたァ!」


トレーニングルームにもボスの部屋にもいなかった。となるとアルがいる部屋はここしかありえない。ドンドン、と何度ドアを叩いても応答がない。寝ているのか?と思いつつ一声断りを入れてから部屋へと踏み入った。

元、いや現在もか。ヒットマンらしいシンプルな部屋に人影はない。となるとどこに…?と小首を捻ると同時に机の上のメモ用紙が目に入った。書置きか何かかとそのメモを手に取った。


「暫く日本へ行きます。保存のきく料理を作り置きしておきましてので、そちらをどうぞ。稲葉アル」


丁寧な筆記体で書かれた文字だが、内容は最悪。ついこの間ボスから一人で外出させるなと釘を刺されたばかりだってぇのに……。ぐしゃりとメモ用紙を握り締めてしまったことは仕方ねえと思う。


「……あんの、クソガキ――――!!!!」


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