億万長者(1/5)


ボンゴレファミリー。
伝統・格式・規模・勢力。その全てにおいて別格と称えられるイタリア最大のマフィア。裏社会に身を置いている人間ならば、その名を知らない者はいない。

そしてその巨大なボンゴレファミリーの組織の中で最強と謳われる独立暗殺部隊ヴァリアー。
8年前にヴァリアーのボス、XANXASがクーデターを起こし、実質活動休止となっていた。そのはずであった。けれど私の手にはそのヴァリアーの求人広告。何より特筆すべきは賃金の高さ!これはもう応募するしかない。

そんなわけで今日は面接日。行動が早い?当たり前だ。こんな大物をチンタラ行動したせいで逃す訳にはいかない。


「ハア〜〜イ!ワ・タ・シが、面接官のルッスーリアよぉ〜!」
「稲葉アルです。よろしくお願いします」


私の面接官はオネエ口調の方だった。聞けばルッスーリアさん、否ルッスーリア様はヴァリアーの幹部の一人らしい。
まさかこんな、たかが一人の求職者のために幹部が引き出されるとは思わなかった私は、入口を開いた瞬間固まってしまったが、瞬時に平静を装った。


「う゛お゛ぉい!!とっとと面接を始めるぞォ!!」


キーンと耳をつんざくほどの大音量で喋るのはもう一人の面接官、スペルビ・スクアーロ様。耳を押さえたくなる衝動を何とか堪えて、姿勢をもう一度正す。


「そうねぇ…まず貴女、アル?は武術の嗜みがあるかしら〜?」
「……は?」


マニュアルになかった質問がルッスーリア様から飛び出したことにより、思わず呆けた声を出してしまった。これで失格にならないだろうか……そう思いつつ、声が震えないよう気を付けながら、私は口を開いた。


「失礼とは存じますが…その……」
「何だァ゛!?早く言え!!」
「私が応募した職は確か……『メイド』のはずであると思うのですが」


そう。私が応募した給料の良い職は『メイド』。あの身の回りの世話などをする仕事。別の言葉では使用人。『戦闘員』ではないのだ。それなのにこの質問はおかしいだろうと。

するとルッスーリア様が「問題はそこなのよぉ!」と体をくねらせながら話し始めた。


「ボスとベルちゃんが使用人を次々と病院送りにしちゃって」
「戦えるメイドを雇えばいいっつう話になったわけだァ゛」


それは最早メイドとは呼ばないのでは…と口にしそうになったが、何とかそれを抑えた。
想像以上にデンジャラスな職場となりそうではあるが、背に腹は代えられない。このチャンスを逃す訳にはいかない。逃さない。


「で、テメェは何か出来るのかァ?」
「簡単な護身術程度であれば」
「……何もねぇよりはマシか」


余程人手が足りないと見える。心許ない私の返事にもスクアーロ様は期待できる言葉を呟いた。

そうして私は、無事手に職を得た。


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