時は金なり(1/3)


「あー、アイス食いてえ」事の始まりはベル様のこの呟きであった。コンビニにでも行けばあるんじゃないですか。今思えばこう言い返さなければよかった。


「なら買って来いよ」
「…リハビリがてらにご自分で行かれては?」
「俺、王子だからそんなことしねーし。それに、メイドは主人の言うことに従うもんだろ?ししっ♪」


メイドを都合よく働くパシリか何かと思っているのだろうか、この人は。強く否定し切れないところが心苦しい。

メイド服には必須であるはずのエプロンは取り上げられ、幹部用の上着の着用を義務付けられていることに、私はそろそろキレてもいいはずだ。
上着の袖に腕を通し、外に出る。近くのコンビニはこっちの方角だったか、と足をそちらに向けた。


リング争奪戦が終わってまだ数日。傷が癒え切っていない幹部の皆様の大事を取って、まだ日本に滞在している。皆様日本食には満足し切っているようなので、そのところに不満はないのだが。

イタリアに帰れば他の使用人の方達、他の隊員の方々に何と言われるものか。これも全てあの我儘が何でも通ると思っている主人のせいだ。何をされるかわかったものではないので、口にすることはしないが。


ベル様が求めたアイス、それとついでに自分用の間食としておにぎりやサンドウィッチを購入した。いつも作っている食事に比べて安価であるし、何より量がある。大食らいの私は、食べられる時に詰め込んでおきたい派なのだ。決して、常に物を口に含んでいるわけではない。


早く帰らなければベル様から何を言われるものか。「ししっ、アイス溶けてんじゃん。買い直して来いよ」絶対こう言うに違いない。少し早足に、小走りで屋敷に向かう。


「お、っと…」
「す、すみません!」


曲がり角で眼鏡の少年とぶつかりそうになった。袋の中身は無事。こちらこそすみません、と少年に返そうと思えば少年から向けられたバズーカが目に入った。こんな気弱そうな少年が大胆な行動をするなんて。二重の意味での謝罪であったのか。それにそのバズーカはボヴィーノファミリーに伝えられている10年バズーカでは……。

なんて驚く間もなく、私の視界は光に包まれた。あのヴァリアーのメイドであるにも関わらず……不覚。


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