挨拶より円札(3/3)


9代目から沢田くんに会いに行くように伝えられ、そのまま病室に帰ることなく竹寿司という寿司屋に向かった。なんでも山本くんの家が営む店らしい。ここか、と看板を見て扉を引いた。


「こんにちは」
「え、稲葉さん!?」


どうやら宴会をしていたようで、中は飾り付けがされている。そう言えば表に「貸切」という札がかかっていたな。9代目からの命令なので気にせず入って来てしまったが。


「稲葉!テメェどの面下げて来やがった!」
「9代目の面ですよ、獄寺くん」


9代目の名前を出してしまえば、いつものように突っかかってくる獄寺くんも何も言えないのだろう。「うっ…」と呻き、すぐに口を閉じた。

「アルちゃん!まだ並盛にいたんだね」と言った京子さんとハルさんに、まだもう少し滞在する予定なんです、と伝えた。


「この度の騒動について、挨拶に行きなさいと9代目に申し付けられて参りました。私で不満でしたか?」
「いや!そんなつもりは…!」
「私でご不満があれば、後日改めてザンザス様が伺われると思いますが」
「ヒィッ!ざ、ザンザス!?いいよ別に!!」


ボンゴレ10代目は余程ザンザス様に畏怖を抱いているのだろう。ブルブルと体が震え始めた。


「なあ、スクアーロって元気にしてっか?」
「はい。つい先程も喧しいくらいに叫んでおりましたので」


スクアーロ様に限らず、皆様ああ見えてヴァリアーの幹部ですからすぐに回復します、と伝えると先日まで敵だったのにほっと安心したようだ。


「まあ座れ」とリボーン先生が席を勧めてくれたので、席に着かせてもらう。目の前にリボーン先生が座り、その隣に10代目が並んで座った。何か話があるんですか?と尋ねるとオドオドとしながら10代目は頷いた。


「その、えと…」
「私の過去が聞きたいんですか?」


「ええっ!?なんでわかったの!?」と10代目は叫んだ。10代目はわかりやすい人だから。図星をつくことなど容易だ。
皆それぞれ話に夢中になっていることだし、ここだけヘビーな話をしていても誰も気付かないだろう。無理ならいいんだ、と10代目は慌てるが、大丈夫です、と落ち着かせた。そうですね。どこから話したものだか…。


「まずはなぜ私が骸くんと同じ実験施設にいたのか、からですよね…」
「う、うん…」
「簡単な話です。追手から逃げて、生き延びるためです」
「お、追手ぇ!?」
「私は親に、マフィアに売り飛ばされたのですよ」


「え」とボンゴレ10代目が固まった。甘い子供には刺激の強い話だろう。どう反応すればいいのか混乱している彼に苦笑し、リボーン先生は帽子を下げた。別に裏の世界では珍しい話でもないと言うのに。


「仕方なかったんです。親にはもう金が無く、借金に追われていました。親も私も、生き残るためにはこれしか方法が残されていませんでした」


私を売った金ですら、借金全てを返済することは出来なかった。ファミリーに売られた方が私が生き残る可能性が高い。あるファミリーからファミリーへ。そうしてエストラーネオファミリーへと売り飛ばされた私は、そこで骸くん達と出会うこととなった。親の金遣いが荒かったわけではない。全ては環境が悪かったのだ。私の家族は不運に見舞われていた。本当に、それだけだったのだ。


「運が悪いことに、ファミリーに引き取られた私はその先々で人体実験のモルモットにされ、敵対マフィアに囮として戦場に連れ出され。そこから逃げ出すために、私は初めて人を殺した」


今でも覚えている。あの感触、臭い、景色。あの瞬間から私は綺麗な生き方など出来なくなったのだ。ファミリーの敵討ちをするための追手から逃げ回り、必死に生きようとした。


「その時です。リボーン先生と出会ったのは」
「それで、生き残る方法を教えて欲しいと俺は頼まれたんだぞ」
「そんな、ことが……」
「勘違いしないでください。私はもう割り切っていますから」


ザンザス様ではないが、同情なんて反吐が出る。もう過去の話なのだから。

ではそろそろ、と立ち上がった。病室が荒れているだろうから、早く帰って掃除をしなければいけないだろう。


「これといって挨拶と言えるようなことは出来ませんでしたが、そろそろお暇します」
「あ、うん!その…また会おうね」
「そのような機会がありましたら」


つくづく甘い男だ。次に会う時は敵同士かもしれない可能性があるのに。けれど、彼のこういうところが人を惹きつける魅力なのだろう。「私には眩しすぎる」気付いたら口にしていた言葉に「え」と沢田くんが反応したが、何でもないと首を振っておいた。


「これからボンゴレを弱体化させれば、ザンザス様がヴァリアーを率いて殴り込みに来るかもしれないということを肝に銘じておいてくださいね?ボンゴレ10代目」


そう言い残して私は店を出た。「だ、だからオレはボスにはならないって――!!」というボンゴレ10代目の叫び声が店の外からでも聞こえて、クスリと笑ってしまった。


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