▼銭ある時は鬼をも使う(3/4)
久しぶりの日本の地、ではないか。つい数日前まで10年前の日本の地を踏みしめていたのだから。骸くんのお願い、もとい依頼を達成するために黒曜へと私の足は向かう。
歩きながら人影がないことを確認してから、イタリアから持ってきた武器を確かめる。こんなところに身に沁み込んだ習慣が見られるなんて、悲しくて泣いてしまいそうだ。
ロングスカートの下に常に隠してある愛用している組み立て式の銃剣が一丁。リボルバーが一丁にサバイバルナイフが一本。スペアの弾丸が程々に。手榴弾が二つ。自分で言うのもどうかと思うが、稲葉アルよ。物騒な物を持ち歩きすぎだ。 次いでポケット内のリング、匣。使える属性全てとランクの高いものと、使い勝手のいい匣を選んできたつもりだ。まだ実践で使えそうもないが、ないよりはマシだろう。
空港からバスを乗り継いで黒曜までやって来た私だが、そこである重大なことを思い出した。
「クロームさんの居場所……知らない」
失態だ、失態。かと言って今から骸くんに連絡を取り直すのは無理だろう。力を温存云々と言っていたことだし。
今現在ヴァリアーの隊服を着ていないとは言え、ほいほいと姿を晒して動き回るのは得策ではない。街中を歩いている時に気付いたが、一般人のものではない気配を持つ人が何人かいた。十中八九ミルフィオーレで間違いないだろう。
いつまでも人目に触れているべきではない。せめてどこかに身を隠そうと思い、フラフラと歩き続けた。今いるのがどのあたりなのか。GPS機能の付いた物は持っていないから、詳しい位置もわからないし。
何か目印になるものを、と思っていると、見覚えのある建物が目に入った。
「黒曜ヘルシーランド…」
廃墟であるが、雨露は凌げるだろう。今日はここに泊まり、明日またアジト探しに出かけよう、と黒曜ランドに足を踏み入れた。 元々廃墟であったが、それを含めても所々が崩れている。足場が悪い。入口付近は瓦礫の山で、とても寝泊り出来るような場所ではない。
奥へ、奥へと進み、一つの広い部屋へ。まだ中に入ってはいないが、ここならよい寝床になるだろう。けれど気になるのは人の気配がすること。リボルバーを懐から取り出し、音を立てないように安全装置を外した。
「動くな」 「っ、だ、誰!?」
思ったより高い声。暗い部屋の中で目を凝らすと、見覚えのある少女がそこには立っていた。
「貴女は……クローム・髑髏さんで間違いありませんか?」 「…えっと、ヴァリアーの……」 「アル。私は稲葉アルです」
リボルバーを懐に仕舞い、彼女に近付いた。近寄ることで、彼女の姿がはっきりとしてきた。ターゲットに間違いない。そして勘違いでなければ彼女は私と同じ時代の、つまりクロームさんもタイムトリップしたということ。 うーん…助けるべきは過去のクロームさんか未来のクロームさんか聞くのを忘れていた。が、同一人物だからターゲットということにしていいだろう。
「私と顔を合わせた回数は少ないのに、よく私のことを覚えていましたね」 「骸様から色々聞かせてもらったから…」
骸くん、一体何を吹き込んだんだ。
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