▼人生、意気に感ず(3/5)
白蘭は「ふぅん」と呟き、沢田くんとの戦いに戻った。こんな心境でも、そうでなくても戦いを支援は出来ない。リング争奪戦の時同様、私達は傍観に徹することしか出来ない。
そんな中、カン、カンと叩かれるような音がした。共鳴しているのか。沢田くん、白蘭を包むような炎の球は結界の役割を果たしている。外からの干渉は不可。やがてユニさんが呼びこまれて結界が一つに合流した。
ユニさんは命と引き換えに、アルコバレーノを復活させるらしい。すなわちreborn。 アルコバレーノが復活すれば世界の秩序が保たれる。その前にアルコバレーノは強い。彼らが沢田くんの力になれば白蘭のことを倒せるかもしれない。
「誰が復活しようと負けっこないけど」時間を稼ごうとしたユニさんの考えを読み取った白蘭は沢田くんの全身の骨を砕いた。
「おまえを倒すのはアルコバレーノじゃねぇ。俺の生徒、ツナだ」
白蘭はリボーン先生の言葉を嘲笑った。出来るわけない、と。
「ツナ、お前は白蘭を倒さなきゃなんねーんだ」 「ぷ、あはははは!ビックリだな!何を言い出すかと思えばこのご時世に『ねばならぬ』のど根性精神論かい?」
これが俺のやり方だ、とリボーン先生は言い放った。
「いいか、ツナ。死ぬ気で戦ってんのはおまえだけじゃねぇ。ユニもおまえ達を平和な過去へ帰すために、命を捧げるつもりなんだぞ」
大空のアルコバレーノと言えど、復活にはそれ相応の危険が伴う。肉体の消滅。死の危険だ。
そうはさせない、と白蘭がユニさんに迫ろうとした時、沢田くんが咳込んで体を起こした。
「ユニは…お、お前に…渡さないぞ…」 「ハハッ、震えてるよ!体って正直だよねー。コテンパンにされた恐怖。忘れられずに怯えてる」
沢田くんの人生は不運の連続だ。そして、一番の不運は未来に来たことだ、と言った白蘭に沢田くんは「それは少し違う気がする」と言った。
「皆がいたからオレは、ここにいるんだ…オレ、不運どころかついてるよ…皆と未来にいた時間は俺の宝だ」
まるで自分に決意を刻み付けるように言った沢田くんの言葉が、なんだかすっと胸に溶け込んできた。
沢田くんの言葉を受け取ったのは私だけでなかったようだ。ボンゴレリングから一世のファミリーが現れた。それと同様に沢田くんのグローブから紋章が浮き上がり、ボンゴレプリーモが姿を現した。
「ボンゴレファミリーの初代ボス、ボンゴレプリーモ!」 「プリーモ?T世だって?ハハハ、からかうのもいい加減にしてくれる?そんな大昔のご先祖様をホログラムで投射するなんて、悪趣味にも程があるよ」 「ホログラムではないです。貴方もそう感じている筈です」
この現象はトゥリニセッテの中でも、マーレリングにもおしゃぶりにも起こらない奇跡。
「これはボンゴレリングの『縦の時空軸の奇跡』」
「縦の時空軸の…」と白蘭が繰り返した。
「生まれた時から私の記憶に焼き付いている、こんな詩があります。 海はその広がりに限りを知らず 貝は代を重ね、その姿受け継ぎ 虹は時折現れ、儚く消える」
この詩の中のマーレとは “海”。ボンゴレとは “あさり貝”。アルコバレーノとは “虹”。この詩は、トゥリニセッテのそれぞれの大空の在り方を示している。
どこまでも広がるマーレは横の時空軸、平行世界。代を重ねるボンゴレは縦の時空軸、伝統の継承。そしてアルコバレーノはどこにも留まらず、点として存在する。
プリーモは沢田くんに向けて「枷を外そう」と言った。二つに分割するために力を抑え込んだボンゴレリングは炎の最大出力が残りの二つのトゥリニセッテに比べて少ない。それをプリーモが元に戻そう、と言うのだ。
形状が変わったリングの力は計り知れない。今まで押されていた戦いの形勢が、まるで逆になった。「やっと本気で戦える」そう言ったのは白い色なんてなくなって、黒く染まった白蘭。
二人の流れ弾がユニさんに当たってしまう、かと思われたが、それは綺麗に弾かれた。ユニさんの全身から炎が放出されている。彼女はおしゃぶりに命を捧げて死ぬ気だ。
「待てユニ!!そこまでしてアルコバレーノを復活させる必要はない!!」 「いいえ。彼らの復活は沢田さんたちが平和な過去に帰るためにも必要なんです。そしてそれは多くの人々の命を救うことにも繋がります。ようやく私の力を正しく使うための機が熟しました。これが私にできる唯一の賭け。そして避けることの出来ない、私の運命」
――もう恐ろしい未来の待つことのない、平和な過去に帰れるはずです
昨晩、ユニさんが言った言葉だ。ああそうか。だから昨晩の彼女の瞳は、あんなにも覚悟で溢れていたのか。
そして彼女はなんて、なんて強いのだろう。
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