隔てるもの
清潔感溢れる白い壁。清潔ではあるが、単調なそれに挟まれた廊下をオレは歩いていた。
チラリと左手の窓の外に目を向ければ、里の人が忙しなく動き回っていた。そんなに急ぐことがあるのだろうか。里という柵の中で大人しく飼われていればいいのに。
そんな冷たい考えを頭から振り払う。
関係ない、関係ないんだ
ガラスに映った無機質な瞳を見たくなくて目線を前に戻す。
きゅっきゅ、と一定のテンポを刻んだ足音が廊下に響く。時々すれ違う他の見舞い人とは道を譲り合う。それは単に純粋な善意からであったり、忌み嫌う感情からくるものもあった。
決して誹謗中傷に屈せず、前を向いて歩く。そしてあるひとつの病室の前で足を止めた。
はたけカカシ
ネームプレートにはそう書かれていた。二度、中指でノックをして扉を横にスライドさせる。
「はろろーん」
病室に足を踏み入れると同時に仮面を貼り付ける。誰にも考えを知られないように、心を悟られぬように。どうせこの先生だって仮面を着けているんだ。お相子様ってことだよな。
「ってあれ?もしかしてもう退院?」
ベッドは綺麗に整えられ、先生はいつもの緑のベストを着ていた。荷物は一つに纏められ、明らかにこれから病室を出るところだったようだとわかる。
綱手様の治療を受けてまだ二日ほど。いくらなんでも早すぎやしないか?
「いやー、オレも忙しいからね」
申し訳なさそうに先生は頭を掻いた。
可哀想に。病み上がりだってのにもう仕事か。これだから忍者になっていいことなんて何一つないんだ。ブラック会社も驚きの鬼畜具合だぞ。
カカシ先生の荷物は思った以上に少なくて、何か手伝おうにもそうすることができない。先生は気持ちだけで十分だと言った。
仕方なくオレは手ぶらで、先生は鞄を一つ持って病室を出た。先程通ったばかりの廊下をまた歩く。
「ナルセは、今幸せ?」
唐突にそうカカシ先生から問われる。一体何なんだと横目で先生を見た。
その目から、声色から、いつものおちゃらけた様子ではなく、真剣であることがひしひしと伝わってくる。
「…孤独じゃないって、とても心強いね」
今のオレの答えは英語に例えると、Do you〜?で訊かれたのに、YesでもNoでもない答え方をしたのだろう。だからと言って訂正する気なんてさらさらないが。
だって、先生のことは好きだけど大切じゃない
本音と語り合ったことなんて、まだほんの指で数えられるほどしかない。本音で語り合えて初めて大切に思える。そうだろ?
「先生、これから任務?」
「ま、そんなとこかな?」
「そう…じゃ、頑張ってね!」
病院を出て振り返らずに駆け出す。元気になったことさえ確認できればそれでいいんだ。今日はそのために来た。もう用はない。
カカシはナルセへと伸ばしかけた腕をゆっくりと下ろした。
「(ああ、また壁か…)」
カカシの心の内を知っているのは誰も、または一人しかいなかった。
カカシの苦悩
(壁を作るのは無意識か、故意か)
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