思い出の味
ぱしゃん。ぱしゃん。川辺を歩いていると聞こえてくる水が跳ねる音。
一体何事かと辺りを見ると、川に向けて石を投げ続けているサスケを見つけた。どこか遠いところを見ていた。
「サースケくん!どうかしたのかな?」
頭上から覗き込むようにして声をかけた。ゆらりと虚ろな目でオレを見る。これは…結構危険かな?
サスケは何も言わずに石を投げ続ける。隣に座って顔を見た。あの日を、イタチが出て行った日を思い出す。その時と同じような顔をしている。
「な、な!今日暇か?」
「…ああ」
お!今度は返事を返してくれた。うむ、上々である。それじゃあ行くかとサスケの手を引いて立ち上がる。
「久しぶりに二人で飯食おうぜ」
ご飯を食べる、と言ってもどこか飯屋に行くのではなくて自炊だ。料理をすることは気を晴らすのに役立つ。
自炊するためには買い出しに行かなければいけない。里の人の目が気になるけど、これもサスケの為だ…が、まん……これで泣き出したら雷でも降ってくるんじゃないのか?
さて、買うものは人参にじゃがいも、玉ねぎに豚肉だ。これでわかった人はいるかな?そう、皆大好きカレーライスだ!定番だよ、定番。それに楽だしね。
サスケと並んで荷物を持って歩いていると受ける、ビシビシと突き刺さる目線。もちろんいつものアレじゃない。女の子からの恨みがましいという目、目、目。
「オレ明日には亡骸になってるわ…供養はよろしく」
「…何言ってんだ」
いや、だってコレ絶対殺られるよ。皆本気の目をしてるもん。すでにオレの目は殺されたようなもんだろ。死んだ魚の目をしてるって自信あるぜ?
*****
まだ料理がそこまで得意じゃなくてレパートリーも少ない頃、三人でご飯を食べる時は殆どがカレーだった。
今回料理をして食べるのはサスケの家で。台所で並んで調理をする。人参を放り投げて空中解体した。これぞ見事な包丁さばき。
「また、つまらぬ物を斬ってしまった」
「食い物で遊ぶな」
それは正論だ、とふざけると隣でしゃがいもの皮を切っていたサスケに足を蹴られた。酷いわ、暴力に訴えるなんて!そう演技するとまた蹴られそうだったので大人しく口を閉じた。
出来上がったカレーを囲って早速がっつく。うん、昔から作っていたのでもう十八番入りと言ってもいいだろう。要するに美味い!自画自賛と言ってくれるな。
オレは満足気にカレーを食べ続けているというのに、サスケは浮かない顔をしたままだ。
「里が憎いか?」
「……ああッ!」
イタチの、うちは一族の犠牲があると言うのに里の人間はへらへら笑ってやがる。イタチのような人が、自分の一族のような人が一人二人と少ないはずがない。だが、そんなこと知らないとでも言うように笑ってる。
サスケの中の憎悪の感情がまた顔を出していた。握っていたスプーンが震える。
「人を踏み台にして…ッ」
「オレのことが憎いか?」
落ち着いて説くような口調でナルセは口を開いた。なぜナルセがそう言うのか、サスケにはわからなかった。
「間接的とはいえ、うちは一族がクーデターを企んだ原因はオレにある。なのにオレには家族がいるし、笑っていられてる」
「そういうわけじゃ…」
そういうことを言いたいわけじゃなかった。
ナルセのことを恨んでいるわけじゃないし、恨めるわけがない。
一族が皆殺しにされ、イタチが里抜けしてからの一人の間、ナルセはずっと何も言わずに傍にいてくれた。
周りの人間は一族が殺されたことを知らずに笑いながら媚びを売るか、オレを憐れむように見るだけだった。
そこから逃げ出し、いつも向かう安心できる居場所は幼馴染みと呼ぶべきナルセだった。だからナルセは恨む対象になり得ない。むしろ憎いと言うなら……
「憎いのは多分……自分自身だ」
自分で勝手に誤解して、信じたくないから恨みに走って。何の為にしたのか理由を考えなくて。言われたことをそのまま鵜呑みにして。
ナルセの言葉に冷静になったサスケは、先日会った兄のあの泣きそうな顔を思い出す。
「自分勝手で、都合がよくて、結果しか見てなくて…一族を守れなかった弱い自分が嫌いだ!」
一族も父さんも母さんも、イタチも守れなかった。頼りにされなかった。不甲斐ない自分が一番嫌になる。
「そうだな。でも、それが人間という生き物だ」
勝手に誤解して感情のままに憎しみを他人にぶつけ、そのあとの連鎖を考えられない。なぜならこうする以外にこの思いのやり場を知らないからだ。
そしてそれは他か、自分に向かう。
「昔に…戻りたい…」
「…そうだな。オレとサスケ、それからイタチ。何だかんだ言って…楽しかった」
初めて会った時は面倒だと思った。二回目に会った時はなんだかな、と思いつつ相手にした。三回目以降は次に会うのが楽しみになった。
案外二人に頼り切っていたのだな、と自嘲した。
「でもオレ達は進まなければならない。そういう生き物だから」
きっともう大丈夫。一度は前を向けたオレ達だ。また歩いていけるのは容易いだろう。スプーンを置いてニッコリと笑った。
「いつか迎えに行こう」
また三人で
(きっといつか来る)
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