予選A
ハヤテ審判に促され、試合場へ。
「やっほー、ハヤテくん。元気だった?」
顔見知りならではの軽い挨拶。ハヤテ審判はうっとうしそうにオレを見た後口を開いた。
「君は相変わらずのようですね」
「君は相変わらず咳き込んでますね
あ、ごめんって!そんなに睨むなよぉ」
きゃっきゃと対談をする。目の前のキバはオレが審判と知り合いであったことに目を見開いた。
ハヤテくんとはその昔、とある演習場で出会った。一度剣術を使ってみたいなと練習していたところをハヤテくんに見つかった。
当時は仲良くしておいてもそこまでフラグが立たない人物でよかったと嬉しがったものだ。そこからたまに演習場で会う。
「あとでお願いがあるんだけど、いいかな?」
はぁと一つ溜め息。これは了承ってことだな、やっさしー
もちろんお願いというのはサスケの剣術の指導。オレよりも達人のハヤテくんに指導してもらった方がいいに決まっている。
忘れかけていたキバをちらっと見たらニヤリと余裕そうに笑って大声で騒ぐ。
「うひゃっほう!こりゃ勝ったも同然だぜ赤丸ぅ!」
「ワン!」
「同じ里のよしみだからって手加減はしねぇぞナルセ。オレがお前なんかに負けるはず無ぇからな!」
「うん。頑張って欲しいってば」
…あれ?応援したはずなのにムッとされた。なぜだ
素直に頑張って欲しいから応援しただけなのに。解せぬ
教え子の登場にカカシは重い腰を上げた。サスケ、サクラと共に柵の前に立つ。
「(…悪いけど、彼じゃキバには勝てないわよ…カカシ…)」
キバの担当上忍である紅は心中でカカシに意見した。
ナルセのアカデミーでの成績は思わしくない。それはキバにも同じことが言えるが、座学ではの話だ。こういった実戦では別の話。
キバはバリバリの攻撃特化型である。ナルセでは到底キバに対抗することは出来ないであろう。
紅は静かに会場に視線を戻した。
「では…始めて下さい」
ハヤテ審判が試合開始の合図をしたと同時にオレは手をしゅぱっと挙げる。
キバはその俊敏な動きに何か起こるのではと身構える。オレはゆっくりと口を開いた。
「棄権します」
「却下します」
「ワッツ!?」
一見漫才に取れるそのやり取り。会場内は一気に冷め切った。
なんてこった。棄権の意を告げれは間髪入れずに却下との返事。な、なんて早い返答なんだ、ハヤテ審判
「それはおかしいと思いまーす」
すかさず抗議。だがしかし、返ってきた答えは予想外すぎるものだった。
「今回君にだけ特別ルールを設けることになりました。棄権は認められないというものです」
「な、なんだよそれ!?そんな人権無視なルール、誰が考えやが、お前かぁぁぁあああ!!この老いぼれぇぇええ!!」
ばちりと観客席に立っていたじーさんと目が合ったと思いきや、意味ありげに微笑まれた。ついでに手も振られる。
犯人は絶対にあいつだ
こんな厄介なことを仕出かしてくれるのはあのじじぃ以外いやしない
面倒臭い。なんでオレがこんな目にあわなきゃいけないんだよ
オレは忍者にならないと何度言えば理解できるんだ。痴呆か?とうとう痴呆が始まったのか!?施設にぶちこむしかないよな!
棄権出来ないと分かればオレに取れる行動は一つしかない。
「よし、キバ来い!!」
ばばーんと効果音が付きそうになるくらい両腕を大きく広げ、キバの前に立ち塞がる。どうぞ攻撃してください状態だ
キバはその行動をなめられたと受け取り青筋を立てる。
「なめやがって…擬獣忍法 四脚の術!」
ナルセは避けようともせず、キバの攻撃を真正面に受ける。体は飛んでいき、土埃が立つ。
煙が晴れた中、ナルセはうつ伏せで倒れていた。ピクリともしない。誰もがキバの勝利を確信した。
審判がナルセに近寄り意識がないか確認する。すると、溜め息を一つついて立ち上がった。
「いつまでそうしてるつもりですか。負けた振りも認められませんよ」
「…あらら。ばれちゃったってば」
ナルセは何事もなかったかのように立ち上がる。先ほどまで傷だらけだったというのに、服には埃が付いているだけで、傷などどこにもない。
無傷のナルセに会場はどよめいた。
傷がない仕組みは簡単だった。
キバの攻撃を紙一重で避け、自分はあたかも攻撃されたかのように装い飛んでいく。
キバの攻撃の手応え、土埃、自分の傷は全て幻術で作り上げたもの。痛いのは嫌だから攻撃に当たりにいくなんて真似はしない。
「(さっすがナルセね!)」
「(あいつがあんなものにやられるわけがないだろう)」
ナルセの弟子二人は最初から演技をしていたことに気付いていた。今まで誰よりもナルセの傍にいて、その実力を垣間見ていたからだ。
最後の切り札の演技も使ってしまったし、どうしようか
「赤丸!擬獣忍法!」
「ワンワン!(獣人分身!!)」
キバは完全に頭に血が上っているし。先ほどから四脚の術を避けているばかりだ。
二人がかりでの連続攻撃。体力を減らそうっていう作戦かな?でもこれじゃあキバの体力が減る一方なんだよなー
一向に進まない試合に観客席にいた人間は痺れを切らせていた。
キバと赤丸が攻撃、ナルセはそれをただただ避ける。その繰り返しだ。それを十分以上繰り返している。
「(なんで当たらないんだよ!?)」
軽い身のこなしでキバの攻撃を避け続けるナルセ。その動きは洗練されたもので、さらにキバを苛立たせる。
「(これじゃあ攻防一線のままじゃない!しゃーんなろー!)ナルセ!本気を出せば桜餅を奢るわー!」
観客達はどんな応援なんだとサクラに対し呆れたが、本人は微かに反応した。
「!(その手があったか)玉露入り茶葉もあげるよー」
カカシ先生も参戦。ピクピクとナルセの体が動く。
「(あと一押しだな)高級最中…」
サスケがぼそりと言った。
キバは外野の意味のわからない応援に苛立ちを表す。
「終わりだ!牙通牙!」
二人が体を高速回転させ、体当たりを試みる。
だがそれもナルセの蹴りにより、防がれることになった。それによりキバの体は空中に浮かび上がる。
「甘いねっ、軌道が丸見えだってば!風遁 烈風!」
ナルセが腕を払えば、幾多の風の筋が鮫の尾のように地面をうねうねとうねり、キバに襲い掛かる。
キバはその風の速さに避けることができず、直撃してしまう。そのまま壁に激突し、意識を失う。
キバと赤丸は先頭不能。
「勝者、うずまきナルセ!」
「…あ、やっちゃったってば」
*****
やって、しまった…食べ物欲しさについ…
キバに勝利し、オレは本選進出。
計画通り、と某ノートの人の有名な台詞を言えなかった。
オレの試合の次は日向家同士の因縁の対決だった。原作通り、ヒナタは満身創痍の血だらけになるもネジに向かっていった。
ボロボロになっても立ち向かっていったヒナタを見るのは痛ましかった。
原作と違うのは、ヒナタがネジに恋心を抱いているということ。その相手に傷つけられるということは、どんなに辛いことであろうか。
強くなれたかな?とオレに問うたヒナタに、もちろんだともと強く返した。
その次の試合はリーと我愛羅であった。
オレにはわかった。あれは我愛羅ではなく砂分身だと。
でも口を出さなかった。あれは二人の戦いだから。口を出せば、リーは絶対にオレを責める。そうわかっていたからだ。
結果リーは我愛羅の砂に肉を骨を砕かれた。
それでも立ち続けたリーには喝采を送った。お前は一人の忍だと。
最後の試合は残った音忍とチョウジ。
結構あっけなくチョウジはやられてしまった。見せ場無し。チョウジェ…
予選が全て終了し、最後に本選の説明を受ける。
第三の試験は一か月後に行われる。試合形式はトーナメント式。勝っても負けても、その実力が買われれば中忍になれるらしい。
そりゃあ頑張って負けないとな!
対戦相手はくじで決める。オレの相手はネジ。
ぜひ完膚無きまでに倒してもらいたいものだ。オレの夢のために!
予選通過
(勝ったからには仕方ない、景品はもらっていくぞ!)
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