星の瞬き | ナノ

  少女は歌う


大いなる愛。なんと甘美な響きであろうか
私のような悲惨な者までもを救って下さる
道を踏み外しさまよっていた私を
神は救い上げてくださり
今まで見えなかった神の恵みを
今は見出すことができる




「お願い!このとーり!」

「えぇ〜…」

「一枚だけ!ね…?」


嫌がる親友を説得して一緒に撮った記念写真。これであたし達お揃い物ができたね!これはあたし達の深い絆の証。ずっとずぅっと傍にいようね?って誓い合った証。



神の恵みこそが 私の恐れる心を諭し
その恐れから心を解き放ち給う
信じる事を始めたその時の
神の恵みのなんと尊いことか




「ここはあたし達の天国だね」

「そうだね。今日は何にする?」


放課後の夕陽が差す、もう使われていない音楽室。ピアノはまだ弾けるから、いつも二人でそこの教室のピアノの長椅子に座って一緒にピアノを弾いたり、何か歌を歌っていた。本当に、あたし達にとってそこは天国だった。


「今日はアメイジング・グレイスにしましょう!」

「またぁ?」

「いいんデスいいんデス!今日はナルセが観客ね」


アメイジング・グレイスは代表的な讃美歌。神様の恩恵を尊ぶ歌。でもあたしはナルセの幸せのために今この歌を捧げる。

歌には意味が込められている。こんな綺麗に相手に自分の思いを伝えられる歌は素晴らしいと思う。



多くの危険、苦しみと誘惑を乗り越え
私を救い導きたもうたのは
他でもない神の恵みであった




「リアナちゃん、一つ言っておきたいことがあるの」


あの子が、親友が、あたしの光が、消えた。信じられなくて、信じたくなくて、その時のあたしは死んだような顔をしていたと思う。

ナルセのおばさんもお葬式の時、あたしと同じくらい暗い表情をしていた。それもそうだよね。子供を亡くしたんだもん、まだ高校生だってのに。


「これ、リアナちゃんがあの子にあげた物でしょう?」


おばさんがハンカチに包んでいた中にあったのは、あたしとナルセが“友情の証”として一緒に撮ったあの記念写真だった。焼け焦がれてもう何が映っていたのかはわからないけれど。でも、わかる。ただの炭になっていたとしても、それでもわかるものが証だから。


「あの子、死ぬまでずっとこれを握り締めてたらしいの」

「ぅ、うわぁあぁあああぁ!!」


膝から泣き崩れた。苦しくて、痛くて、もう動きたくないって思ってたはずなのに。あたしなんかとの証をずっと気にかけてくれてたなんて。

悔しかった。どうしてあたしとナルセが別れなくちゃいけなかったの?どうしてあたし達の幸せを奪われなきゃいけなかったの?どうして、どうしてナルセだったの?


「リアナちゃんはあの子の分まで、元気に生きてね……」


泣きたかったのはおばさんの方だ。でも、涙は止まらなかった。



何万年経とうとも
太陽のように光り輝き
最初に歌い始めたとき以上に
神の恵みを歌い讃え続けることだろう




霞むようにあたしの声は薄れていき、たった一人のコンサートは終わった。

私がこの世界で初めて地を踏みしめた場所。この丘からは木ノ葉の里がよく見える。なかなか見慣れない景色にちょっとだけホームシックになって、独唱をしてみた。あたしの、あたし達の思い出の歌を。


「上手ね。綺麗…」

「えへへ…褒められても何も出ませんよぉ」


てかいつの間にいたんデスね、サクラ。流石現役の忍デス。聞かれてたなんて恥ずかしいけれど、褒められて嫌な気分なんかしない。


背後から歩み寄ってきたサクラはあたしの隣に腰を下ろし、さっきの歌の余韻に浸るように一緒に里を見下ろした。

ここに楽器があればもっと沢山の曲を聞かせてあげられるのに。ピアノとかがいいな。あたしの得意な楽器だし、なによりあの“天国”でよく使ったのはピアノだ。


「あたし達はね、よく二人で歌を歌ったんデス。伴奏があたしで、ナルセは華の歌手」

「へぇ…」

「ま、あたしの方が上手デスけど!」


音楽に関してだけはナルセに負けないもんね!でもまぁ…百歩譲ってナルセの歌声はあたしにとって、とても魅力的だったとは認めてあげる。


「なんていうのかな…ナルセの声は優しいんデス。綺麗でもあるんだけど、優しくってあたしを包み込んでくれて…」


夕焼けの優しい陽に溶けるような声はあたしを心から安心させてくれた。あたし達の天国は楽しいって言うより、むしろ


「幸せだったなぁ…」


あの頃に戻りたいって、本当は切実に願ってる。大事な、大切な親友ともう一度でいい、あの幸せな瞬間を一緒に過ごしたい。たとえそれが許されるようなことじゃなくっても。現状を受け入れなくちゃいけなくても。


「運が悪いことに、ナルセを轢いた車はガスを積んでいて…。壁にぶつかった瞬間ドーン。……助かる望みはゼロでした」


ナルセが巻き込まれた事故はナルセだけでなく、多くの犠牲者が出た。新聞でもテレビでも大きく取り上げられた。あの時の赤い炎がトラウマになってる人もいるだろう。

学校のナルセの机の上に置かれた花が、やけにリアルだった。


「なんで…笑っていられるの?」

「いつまでも悲しんでいられないから、かな?悲しんでばかりだと怒られそうだし」


ナルセならそう言うってわかってるから。バカじゃないの?って貶しながら。きっとそう。それに


「いつかまた逢った時に、自慢話をいっぱいしたいから!」



テルスのアリア
(あなたへ捧げる)
―――――
『アメイジング・グレイス』より


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