その慈愛は今は
「あぁん!ママぁーーー!」
またもや散歩中のこと。泣いている女の子を発見した。世のいいお姉さんとして泣いている子供を放っておくことなんてできない。できるだけ人当りの良い笑みを浮かべて近付いた。女の子の背丈に合わせてしゃがみ込む。
「迷子、デスか?」
「…う、うんっ……」
「奇遇デスね。……あたしもデス」
「何も変わらないよー!」と女の子はさらに泣き出してしまった。
迷子の女の子とリアナは近くにあった公園にいた。女の子をベンチに座らせ、リアナは目線を合わせる。
「名前は何デスか?」
「うっ…うっ…、ルナ」
「ルナちゃんデスかぁ。お母さんとはぐれたんデスね?」
「うっ…うん」
ルナちゃんも段々と落ち着きを取り戻してきた。こういう時は交番に行くノリで火影邸かアカデミーに行ければいいんデスがねぇ。おかしいな。あたしはこんなに方向音痴でしたっけ?
「ん?リアナかな?」
「へ?」
対処方法を考えてる最中、名前を呼ばれたから振り返るとそこにはミナトさんとクシナさんがいた。ミナトさんから「また迷子になったのかい?」と苦笑いされた。……何か文句あるんデスか。
ルナちゃんを見て、あたしを見てミナトはふむと考えた。
「とりあえず通りに出ようか」
「え?通りなんてどこに…」
苦笑しながら指差された先には「大通り→」と書かれた看板があった。
「ルナ!どこに行ってたの!?」
通りに出ればすぐにルナちゃんのお母さんは見つかった。ルナちゃんはお母さんに抱きついて、お母さんは何度もお礼を言ってきた。良いことをした後は気持ちのいいものデス。
「本当にありがとうございました!」
「いえ、当然のことをしたまでデス。ルナちゃんもバイバイ」
「うん!バイバイ迷子のお姉ちゃん!」
うん、最後の一言は余計でしたね。
二人はお辞儀をして帰路についた。あたし達もこの場を離れるべく、足を進める。
通りは賑やかで、人々は活気に溢れていた。道すがらに挨拶をし合う者。店先でお喋りをするおば様方。自転車のベルの音。遊び回っている子供達のはしゃぎ声。
ここは暖かい。向こうは恵まれすぎていて、冷めきっていたから。
いえ、向こうのことは好きなんデスよ?生まれ育った地なんデスから。それでも、やっぱり思うんデス。
「ここは平和デスね」
「リアナにはそう見えるの?」
気づけば口をついて出ていた。それを聞かれていて、気恥ずかしくなりながらもクシナの言葉に頷く。
「それは虚像。……この里は異常だってばね」
クシナは神妙な顔付きでそう言った。
なぜこの里の人がそんな非難するようなことを言うのか。わからなかった。なんで?特にクシナさんは木ノ葉の里のことを愛していると思っていたのに。
「ゴホ、ゲホッ!ゴホンッ!」
突如ミナトさんが咳き込んだ。顔色はかなり悪く、大分無理をしているようであった。慌てて二人で背を擦る。
「だ、大丈夫デスか!?」
「ゲホッ、ん、…最近よくあるんだ……」
リアナを心配させまいと微笑んだミナトの傍らでは、クシナが深刻そうな顔つきで彼を見ていた。一体何が起こっているのやら。
「ナルセさんにもルナちゃんみたいな無邪気な時期があったんデスかねぇ…」
なんとなく気まずくなってさっきのルナちゃんの名前を出した。クシナは笑って「もちろんだってばね」と言った。
「サスケと二人、無邪気に走り回ってて」
――ナルセ!今日こそは真面目に修行をつけろ!
――自主性ってもんが大事だろ?オレは今日甘味処に行くの!
走り回る二人は子供そのもので。その時に見せるはつらつさはクシナとミナトを安心させた。一時ではあるが、家族らしく過ごせたあの日々。
それが壊れたのはナルセが里抜けしたから。今はどこで何をしているのかすらわからない。
「本当に、どうしようもない子だってばね。親にこんなにも心配かけさせるなんて……」
口では悪く言っておきながら、クシナの顔は母親がするような優しいものだった。
「でも…ナルセさんは里を出たんデスよ」
例え沢山の人がうずまきナルセという人を思っていてもこれは現実。向こうとこちらの犯罪基準は違うが、確かにうずまきナルセは犯罪者なのだ。
「それでも子供を信じてあげるのが親っていうものじゃないかな?」
ミナトがそう言った。クシナもそれを頷きで肯定した。
二人は例え子供が犯罪者と世間から言われても信じ続けてる、とても愛情深い人だ。
「そう、デスか…。何だかんだ言って皆ナルセさんを信じてるんデスね」
里の人はわからないけど、少なくともこの人達はナルセさんを思い続けているんだ。
皆みんな、こんなにも必死になって追い求めてる彼の人背中。
あなたはだぁれ?
届かぬと知って尚想い続ける
(これほど想われているあなたは…)
prev /
next