星の瞬き | ナノ

  流したのは一筋の雫


これは愚かしい欲で、自己満足で、 独り善がりの願望だ。そのために行くのだ。出るのだ。


「(どうしてナルセが憎しみで染まってるんだ!?)」


オレに憎むなと、復讐するなと言ったのは他の誰でもない、お前だったじゃないか。そのお前が、どうして憎悪に飲み込まれているんだ。オレの知らないうちに何があったんだ!

サスケが葛藤する中、ナルセは右手にチャクラを集中させて螺旋丸を作り上げる。


「(あれは…!?)」

「千鳥じゃないと対応できないかもな」


そう言ったナルセはすでに走り出していた。焦ったサスケは言葉通り印を結んで千鳥を発動させる。

二つの術がぶつかり合った時、滝の水が大きく抉れた。嫌な音が響き渡る。

なんて強力な術なのだとサスケは思った。知らないうちにまたナルセは強い術を習得していた。

ナルセも思った。結構力を込めて放ったつもりだったが、まさか相殺されるとは。サスケを侮りすぎたのかもしれない、と。


「ま!お前の限界は二発…こんなところだ。」

「二発以上使おうとすればどうなる?」

「三発目は発動しない…よく覚えとけ。無理に術を発動しようとすれば、術は上手く発動しない上にチャクラは0になり……ヘタしたら、死ぬぞ」



カカシと修行をした際言われた言葉だ。千鳥を使えるのはあと一回。その一回を有効な場で使わなくてはならないのだ。


「呪印に頼らなきゃ、お前はオレを倒せないんだろ?その呪印も今はオレが封印している。手も足も出ねえなァ。お前にオレは殺せない。なぜなら」


意味深にナルセが言葉を区切った。


「お前が弱いからだ」


それはいつかにイタチに言われた言葉だ。嫌な記憶がサスケの脳裏に蘇る。


「弱ければ何も守れない。力がなければ何も取り戻せない。お前は何も得ることができないんだよ!」


印を結んでもう一度鳳仙花の術を使った。ナルセは術の隙間を縫いサスケに向かって走る。

あと僅かの距離というところでナルセが大きく足を振り上げた。ナルセの蹴りはサスケの顎に入り、さらにナルセは横蹴りをくらわす。ダメージの量はサスケの方が圧倒的に多い。


「知ってるか?一流の忍同士なら、拳を一度交えただけで互いの心が読めちまう。口には出さなくても、だ。どうだ、お前にはオレの本当の心の内が読めたかよ。このオレの!」


瞬身で飛び出したナルセはサスケの左頬を一直線に殴り飛ばした。胸倉を掴み上げて反応を様子見る。


――悔しい、悔しい悔しい悔しい!


一つの思いがサスケを支配した瞬間、サスケの目に異変が現れた。


「(あれはっ!?)」


ナルセは思わず目を見開いた。サスケの写輪眼の勾玉文様が二つから三つに増えていた。危機感を感じたナルセはサスケを突き放す。


「(そう…それでいいんだ)」


もう簡単にはいかないかとナルセは悔しく思いながらも薄い笑みを浮かべる。

足の裏にチャクラを集中させて一気に間合いを詰める。流石にこの速さには追い付けないであろうかと思われたが、サスケはいとも容易くその蹴りを避けた。


「(ナルセの動きが見える!)」


サスケ本人も、自分の写輪眼に驚きを抱いていた。が、これならばいけるとサスケは意気込んだ。だがナルセもそう甘くはない。なんとか、サスケは追いつけているだけだ。


ふと、ナルセが動きを止めこの谷にある像を見上げた。


「サスケ、知っているか?ここが“終末の谷”と呼ばれる国境であることを」

「……ああ」


かつて初代火影千手柱間とうちはマダラが決闘をした谷。


「可笑しなもんだ。うちはのお前が柱間の立場にいて、火影の血筋のオレがマダラの立場にいるなんて」


可笑しな光景なんだ。だが、今のオレにはこれが正しいのだ。


「タイムリミットだ。ここらでケリつけようぜ」


ナルセは右手を前に差出し螺旋丸を作り上げる。サスケも千鳥を発動させた。

これが最後の最後だ。二人の術はチャクラが渦巻き、空気を揺らがせた。高濃度のチャクラが音を鳴らす。

二つは宙でぶつかり合った。



――一流の忍同士なら、拳を一度交えただけで互いの心が読めちまう。


ああ、確かにわかるかもしれない。なんでお前はそんなに憎んでいる。恨んでいる。……悲しんでいる。それを伝えては、くれないのか?


「なあ、オレ達は友達だろう…?」

「…ああ。ずっと、ずっと」

「仲間だろう?」

「お前がそう思ってくれているなら、永遠に」

「大切なんだ」

「オレも。だから、絶対に守るよ」



河畔に倒れたのはサスケだった。見てもいられないほどボロボロで、ナルセはそれをただ冷えた眼で見下ろしていた。

空が淀み、空気が湿っぽいものになりつつある。彼女の簪の房が風で揺れた。


「ナルセ、お前大丈夫か?」


空気を読んでずっと顔を出さなかった九喇嘛がナルセに話しかけてきた。


「何?心配しちゃってるの?」

「…そうかもしれないな。今のお前は見ていて不愉快だ」


九喇嘛の言葉にナルセは自嘲気味に笑った。不愉快、ね。

ぽつぽつとした雨が降ってきた。次第に量が増えていく。あの日も雨だった。でも、今の雨はそれほど痛いものじゃない。


サスケの手に自分の額当てを握らせる。ナルセは立ち上がりサスケをもう一度見つめた。そう、もう戻ることは許されない。

ざあざあと振っている雨は二人の体を打ち付けていく。咽に違和感を感じて咳をした。遠くに再不斬達の姿が見える。もう行かなくてはいけない。


「サスケ…生きろ、強くなれ。そしていつか…いつかきっと」


頬には雫の跡があったが、それが涙なのか雨なのか。誰も知ることはなかった。



暗闇へ落ちる
(ごめんね)


prev / next

[ back to contents | bookmark ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -