追憶A
「知ってるか?うちは一族ってあいつ以外殺されたんだぜ」
「ああ。父ちゃんが言ってた」
一族が皆殺しにされた。生き残ったのはオレだけだった。あいつが、皆を殺したあいつがそうした。
木ノ葉の名門、うちは一族が一夜のうちに壊滅したことはすぐに里内に広まった。同情などいらない。同情するくらいならあの日常を返してくれ。そう叫びたかった。
豪火球の練習をした池の橋に座り込む。ここなら人がそう寄り付かない。一人になるには最適の場所だ。でも物好きだっている。
「オレに何の用だ…ナルセ」
「別にー。つれないこと言うなってば」
隣に来ていいとも言っていないのに勝手にすぐ傍に座るナルセ。とは言え断るつもりもなかったが。
手元にあった石をナルセが池に向かって投げる。ポチャン、と音を立てて池には小さな波紋ができた。
「これからどうする気?」
「…あいつを、イタチを殺す」
「ふーん。一応止めとけとは言っとくけどさ。どうやって殺す気だよ」
あいつあんなんでも暗部だったじゃん?とナルセは言う。
確かにそうだ。今のオレには力がなさすぎる。この前のように簡単に一捻りにされてしまうだろう。だから必要な力を得るためにだ。
「万華鏡写輪眼を開眼させる」
これが唯一あの男に対抗できる手だろうと思った。コツコツ修業を重ねて、などでは遅すぎる。
忌むべき、疎むべき兄は友であるシスイを殺して万華鏡写輪眼を開眼した。
「あの眼を使うぐらいなら復讐なんて止めとけ」
「お前に何がわかる…ッ」
あまりにもナルセが軽々しく止めろ、などと口にするものだからカッと頭に血が上った。気が付けば思わずナルセの胸倉を掴み上げていた。
「この復讐心がテメェにわかるって言いたいのか!」
「ああ、気持ちはわかってる。でも止めておけ」
「最初から何もなかったお前に…全てを失ったオレの気持ちがわかるって言いたいのかよ!あ!?」
今度はナルセがオレの胸倉を掴んだ。見たこともないくらいその目を怒りに染めている。
「お前…ちょっと冷静じゃねえな」
怒りに震えながらナルセはそう言った。それはお前にも言えることだろう。
万華鏡写輪眼を開眼させる条件を言ってみろ。ナルセは声を震わせながら言った。なぜか可笑しく思えて口元が歪む。
「最も親しい友を殺すことだ」
そう言った瞬間ナルセが思い切り殴り飛ばした。幸いに池の中に沈むことはなかった。
「だったらオレを殺してみろよ!ああ!?そんなことでテメェは力を得るつもりか!?答えてみろよ!」
激昂しているナルセは地に伏せているオレの胸倉を掴んでそう叫んだ。
その問いに答えられるわけがない。ナルセもそれをわかった上で言ったんだろう。もう何が何だかわからなくなって顔を伏せた。
「じゃあ…じゃあどうやって強くなれって言うんだよ!!」
「強くなる方法は…一つじゃないだろ?それに、復讐することが全てじゃない」
ナルセは先程とは違う意味合いで声を震わせていた。ハッと顔を見ようと頭を上げるとナルセに抱き締められた。こんな状況になってやっとわかった。声もだが体も震えている。
「お前まで…オレを置いて行くのかよ…」
唖然とした。そうだ。状況は違うがオレもこいつも、今は一人なんだ。男で情けないけれど、ポロポロと涙が目から溢れた。
「オレ達友達だろ…?なあ?今度は…オレがお前のことを守るよ」
二人ぼっち
(それはまるで、自分自身に誓わせているようだった)
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