鬼たちとの再戦@
目を覚ます。光が眩しくて、外を見ればすでに日はかなり高い位置にあった。
「…置いて行かれちゃった?」
影から出てきた九喇嘛を見れば、呆れたように溜息を吐かれた。
「あんたがタズナの娘か?悪いが一緒に来てもらおうか」
「…っ!」
護衛を頼んだ木ノの忍達は随分前に出発していた。ひ弱な自分たちになす術はない。ツナミは侵入してきた二人組に怯えるしかなかった。
「か、母ちゃん!」
「出てきちゃダメ!早く逃げなさい!!」
ツナミの悲鳴を聞きつけやってきたイナリに逃げるように迫る。どうかこの子だけでも、と願いを込めて。
「…こいつも連れてくか?」
「いや、人質は一人でいい」
「(人質…?!)」
男たちはニタニタと笑う。まるでこれからおもしろいことが起きると期待するように。
「クク…じゃあ殺すか?」
歪みきった男は刀に手を伸ばす。が、ツナミの叫びがそうはさせてくれなかった。
「待ちなさい!!…その子に手を出したら、舌を噛み切って死にます……人質が、欲しいんでしょう…?」
イナリを殺し、ツナミが死ねば人質はいなくなる。その状況は望ましくないのか、男は手をひいた。
イナリは思いを巡らせた。
母ちゃんはボクを守ってくれた。
いつもは見せない、険しい顔で強い言葉で。
自分の体を盾にして守ってくれた。
ボクは母ちゃんを守れないのか?
「…弱虫が」
ボクは弱虫なままなのか?
「大切なものはこの二本の両腕で守り通す」
死ぬのは怖い。でも、母ちゃんが死ぬのはもっと怖い!
父と、自分に説教をしてくれた人の言葉が思い出される。その言葉が、今の自分の背を押してくれる。
「待てェ!!」
「あん?」
「…イナリ!!」
男たちが出て行こうとしたところを止める。
膝が笑っている。怖い。恐怖が支配する。
逃げ出したい。でも、逃げたらボクはまた変わらないままだ。
「かっ…母ちゃんから離れろォーーー!!!」
「ったく…しょうがねェーガキだな!……斬るぞ」
「ヤリィ」
刀を抜いた二人。イナリは男たちに飛び掛かる。
このままではイナリが殺されてしまう。
大切なわが子が、いつかの夫のようになってしまう。
ツナミの悲鳴が上がった。
「イナリ!」
男たちは確かに切れたと思った。そのはずなのに手応えがなかった。
「『早起きは三文の徳』っていう諺、当たらないときもあるもんだね」
目の前にはイナリを担いだ子供が。挑戦的な笑みを浮かべて立っていた。
「に、兄ちゃん…!」
「イナリぃ、昨日の説教に一つ付け加えてやるよ。…オレはな、強いんだぜェ?」
「!?こんのッ」
もう一度刀の柄に手をかけ、襲い掛かろうとする。ナルセはイナリを降ろし、頭を数回ぽんぽんと叩く。
安心させるようににこりと笑いかけ、目に見えない速さで襲ってきた男の片方に肘鉄を入れる。男はそのまま気絶し、地面に倒れ込む。
クナイを片手にもう片方の男へ。瞬時に背後に回り込み、首筋に当てる。
「ガトーの手の者だな」
「…はっ!もうおせえんだよ!じじぃのほうはあの再不斬がいる!!」
それだけ聞けばガトーの手下とわかる。首に手刀を落とし、気絶させる。
伸びきった二人を縄で縛りつけ、イナリに振り返る。
「よくやったな、イナリ。あんなことは強い男じゃないとできないぞ。弱虫は撤回だ」
にかりと笑ったナルセに安堵したのか、イナリの目から涙がこぼれる。
死ぬかと思った。もう終わりかと思った。
それでも兄ちゃんは来てくれた。強かった。オレのヒーローだ。
いやあ、寝坊したと思って準備してたら下からドッタンバッタン物音がするの。何事かと駆け下りれば、ツナミさんのピンチじゃない
イナリには笑って見せたけど、正直凄く焦ったもんさ。
起きていきなり戦闘とか辛いわー
で、この後追いつくために走るとかないわー
「オレはもう行かなきゃなんねえからな。こいつらは大人たちに任せるんだ。あ、それからパンとかないかな?」
寝坊したからゆっくり食べる暇がないんだ、と言ったナルセにイナリは涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑った。
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